ヒプノの世界 1






●いろいろな部分

私たちの心は、ひとつの意識でできてるわけではありません。たとえば私は「そろそろビールをやめなきゃ」と思ってますが、ビールが冷蔵庫にあれば、指はプシュッと缶をあけたがります。そのばあい指は「やめたくないの〜」と言っているのですね。おなかが痛くなって学校に行けないとしたら、おなかは「行きたくないの〜」と言ってるのです。「戦うぞ!」と思ってファイティングポーズをとっても腰がひけるなら、腰は「戦いたくな〜い」と言ってます。

前に読んだ禅の本で、「どうしたら悟れるか」という問いに師匠がこんなふうに答える逸話がありました。「洗面器に顔をつけて2、3分したら、誰でも呼吸したくなりますよね。そのことしか考えず、全身全霊をもって酸素を求めますね。そのぐらいの感じで悟りを求めれば悟れます」

でもひとつの望みだけでできている人なんかほとんどいません。「ホントはこうしたいんだけどね」という場合、自分全体の望みではなくて、前頭葉のほんの一部が望んでいるだけなのかもしれません。

自分の(前頭葉の)望みと違う方へ向かおうとするベクトルを、ヒプノセッションでは、サブパーソナリティとして扱います。「自分を引きとどめていた部分」への理解が深まれば、そこに影響をあたえることもできるのです。たぶん、ビールの缶をあけたがる指には指なりの言い分があるのです。「飲んでリラックスしたい」とかです。そこを強引に根性だけでやめようとすると、「リラックスするなってゆうの?」と指が怒るかもしれません。

ビールという「手段」でえていたリラックスという「いい目的」があれば、リラックスできる別のやりかたを見つけてあげるといいのです。すると指も「まぁいいか」と諦めてくれるかもしれません。自分の中にあるベクトルがそろえば、ロスがなくなってまっすぐ進めます。ヒプノは変化への優しいアプローチなのです。

心全体における意識の役割は、色んな人が住む町の市長さんみたいなものです。住民を無視して改革を進めるのでもなく、ふりまわされるのでもなく、全体をよい方向にひっぱっていきます。ヒプノでは、反対する住民の声にも耳をかたむけて、ハイアーセルフのような住民からアドバイスをもらいながら、解決案をあみだします。