標準TTLだけ(!)でCPUをつくろう!(組立てキットです!)
(ホントは74HC、CMOSなんだけど…)
[第656回]
●ルート計算プログラム(TK−80応用プログラム)(その3)
ND80ZV組立キットをご購入いただいた北海道のM様から、TK−80応用プログラムを送っていただきました。
01〜99の範囲の整数のみですが、ルート(平方根)を求めるプログラムです。
前回は送っていただいた8080のマシン語プログラムをもとに、Z80逆アセンブラ(ZDAS)によってZ80のソースプログラムを逆生成して、さらにそこで使われているラベル名を意味のある名前に書き換えてみました。
今回はその続きです。
Z80逆アセンブラで生成されるZ80アセンブラ用のソースプログラムは、プログラム範囲外のアドレスを仮のラベル名をつけて、プログラムの先頭に集めて表示します。
それだけではなくてプログラム内でCALLしているサブルーチンやジャンプ先のアドレスにもラベルをつけて示します。
しかしプログラムを解析して、一体何をやっているのかがわからないと意味の有るラベル名はつけられません。
それからプログラムが使っているワークエリアについても同様に、プログラムがどういう目的でそのワークエリアを使っているのかがわからないことには、適切な変数名をつけることはできません。
実は前回お見せしたプログラムリストを解析した結果、そのプログラムが何をやっているのかがわかりましたので(皆様はおわかりになりましたでしょうか?)、前回お見せしたソースプログラムにさらに手を加えて、どういうことをやっているのかわかりやすいようにコメントを付加するとともに、プログラム内でCALL、ジャンプしているアドレスへのラベル名やワークアドレスの変数名も意味のあるものに直してみました。
それからもとのプログラムには、複数のサブルーチンがありますが、そのサブルーチンの間にNOP(No Operation)がいくつか置かれています。
これは意味のあるものではなくて、単にそのメモリエリアを将来のプログラムの変更にそなえてリザーブするために使われているか、あるいはプログラム変更によってできた空きを埋めるために使われているものだと思います。
昔は一般にはアセンブラなどを使うことはできませんでしたから、皆ノートの上にプログラムを書いて、それを命令ごとに16進コードに置き換えて(これをハンドアセンブルと言いました)、マイコンつまりTK−80にはそのようにして手作業で翻訳したマシン語コード(16進コード)を直接入力していました。
プログラムデバッグの過程で、プログラムの一部が短くなったりしても、その後ろにあるプログセムを前に詰めようとすると、せっかく入力したその部分を再入力しなければなりませんし、ジャンプアドレスなども変わってきてしまいますから、空いた部分はそのままにしておくか、あとでわかりにくくなってしまうのを避けるためにNOPやFFコードで埋めたりすることはよくありました。
しかし今回はZ80アセンブラを利用しますから、間のNOPはソースプログラムの段階で全て削除してしまっても全く問題はありません。
そこで、プログラムをより見やすくするために、もとのプログラムで置かれていたNOPは削除しました。
●最終的に編集したルート計算プログラム(ソースプログラム)です
;;; root program for ND80Z3 ; 2010/11/08 11/09 ; ORG $8000 ; SEGCG=$01C0 KEYIN=$0216 ; LEDDP1=$83F4 LEDDP3=$83F6 ; LED1=$83F8 LED2=$83F9 LED3=$83FA LED4=$83FB LED5=$83FC ; TISU12=$82AC TISU78=$82AF HIKUSU78=$82B3 KOTAE12=$82B4 KOTAE34=$82B5 ; START:LD B,0A LD HL,TISU12 XOR A ; ;TISU CLEAR ; TISUCLR:LD (HL),A INC HL DEC B JP NZ,TISUCLR ; ;TISU KEYIN ; CALL KEYIN RLCA RLCA RLCA RLCA LD HL,TISU12 LD (HL),A PUSH HL CALL KEYIN POP HL ADD A,(HL) LD (HL),A LD A,(HL) LD DE,LEDDP1 LD (DE),A ; ;KEISAN START ; LD A,01 LD (HIKUSU78),A KEISAN_LOOP:CALL HIKIZAN JP C,KEISAN_END CALL KOTAE_ADD1 CALL HIKUSUADD2 JP KEISAN_LOOP ; ;KEKKA NO HYOJI ; KEISAN_END:LD HL,KOTAE12 LD B,02 LD DE,LEDDP3 HYOJI_LOOP:LD A,(HL) LD (DE),A INC HL INC DE DEC B JP NZ,HYOJI_LOOP CALL SEGCG ; ;LED HYOJI O HENSYU SURU ; LD HL,LED3 LD DE,LED2 LD A,(DE) LD (HL),A LD HL,LED2 LD DE,LED1 LD A,(DE) LD (HL),A LD HL,LED4 LD A,48;"=" LD (HL),A LD HL,LED1 LD A,0E;"root" LD (HL),A LD HL,LED5 LD A,80;"." OR (HL) LD (HL),A JP START ; ;subroutine ; ; ;TISU=TISU-HIKUSU ; HIKIZAN:LD HL,HIKUSU78 LD DE,TISU78 LD B,04 XOR A HIKIZAN_2:LD A,(DE) SBC A,(HL) DAA LD (DE),A DEC HL DEC DE DEC B JP NZ,HIKIZAN_2 RET ; ;KOTAE_ADD1 ; KOTAE_ADD1:LD HL,KOTAE34 LD A,(HL) ADD A,01 DAA LD (HL),A DEC HL LD A,(HL) ADC A,00 DAA LD (HL),A RET ; ; HIKUSU=HIKUSU+2 ; HIKUSUADD2:LD B,03 LD HL,HIKUSU78 LD A,(HL) ADD A,02 DAA LD (HL),A HIKUSUADD2_2:RLA AND 01 DEC HL ADD A,(HL) DAA LD (HL),A DEC B JP NZ,HIKUSUADD2_2 RET
●編集したソースプログラムをZ80アセンブラにかけてみました
上のようにして編集作成したソースプログラムをZ80アセンブラにかけてみました。
Z80アセンブラによって作成されたアセンブルリストです。
2010/11/9 7:25 root2.txt END=80A8 ;;; root program for ND80Z3 ; 2010/11/08 11/09 ; ORG $8000 ; SEGCG=$01C0 KEYIN=$0216 ; LEDDP1=$83F4 LEDDP3=$83F6 ; LED1=$83F8 LED2=$83F9 LED3=$83FA LED4=$83FB LED5=$83FC ; TISU12=$82AC TISU78=$82AF HIKUSU78=$82B3 KOTAE12=$82B4 KOTAE34=$82B5 ; 8000 060A START:LD B,0A 8002 21AC82 LD HL,TISU12 8005 AF XOR A ; ;TISU CLEAR ; 8006 77 TISUCLR:LD (HL),A 8007 23 INC HL 8008 05 DEC B 8009 C20680 JP NZ,TISUCLR ; ;TISU KEYIN ; 800C CD1602 CALL KEYIN 800F 07 RLCA 8010 07 RLCA 8011 07 RLCA 8012 07 RLCA 8013 21AC82 LD HL,TISU12 8016 77 LD (HL),A 8017 E5 PUSH HL 8018 CD1602 CALL KEYIN 801B E1 POP HL 801C 86 ADD A,(HL) 801D 77 LD (HL),A 801E 7E LD A,(HL) 801F 11F483 LD DE,LEDDP1 8022 12 LD (DE),A ; ;KEISAN START ; 8023 3E01 LD A,01 8025 32B382 LD (HIKUSU78),A 8028 CD7080 KEISAN_LOOP:CALL HIKIZAN 802B DA3780 JP C,KEISAN_END 802E CD8480 CALL KOTAE_ADD1 8031 CD9380 CALL HIKUSUADD2 8034 C32880 JP KEISAN_LOOP ; ;KEKKA NO HYOJI ; 8037 21B482 KEISAN_END:LD HL,KOTAE12 803A 0602 LD B,02 803C 11F683 LD DE,LEDDP3 803F 7E HYOJI_LOOP:LD A,(HL) 8040 12 LD (DE),A 8041 23 INC HL 8042 13 INC DE 8043 05 DEC B 8044 C23F80 JP NZ,HYOJI_LOOP 8047 CDC001 CALL SEGCG ; ;LED HYOJI O HENSYU SURU ; 804A 21FA83 LD HL,LED3 804D 11F983 LD DE,LED2 8050 1A LD A,(DE) 8051 77 LD (HL),A 8052 21F983 LD HL,LED2 8055 11F883 LD DE,LED1 8058 1A LD A,(DE) 8059 77 LD (HL),A 805A 21FB83 LD HL,LED4 805D 3E48 LD A,48;"=" 805F 77 LD (HL),A 8060 21F883 LD HL,LED1 8063 3E0E LD A,0E;"root" 8065 77 LD (HL),A 8066 21FC83 LD HL,LED5 8069 3E80 LD A,80;"." 806B B6 OR (HL) 806C 77 LD (HL),A 806D C30080 JP START ; ;subroutine ; ; ;TISU=TISU-HIKUSU ; 8070 21B382 HIKIZAN:LD HL,HIKUSU78 8073 11AF82 LD DE,TISU78 8076 0604 LD B,04 8078 AF XOR A 8079 1A HIKIZAN_2:LD A,(DE) 807A 9E SBC A,(HL) 807B 27 DAA 807C 12 LD (DE),A 807D 2B DEC HL 807E 1B DEC DE 807F 05 DEC B 8080 C27980 JP NZ,HIKIZAN_2 8083 C9 RET ; ;KOTAE_ADD1 ; 8084 21B582 KOTAE_ADD1:LD HL,KOTAE34 8087 7E LD A,(HL) 8088 C601 ADD A,01 808A 27 DAA 808B 77 LD (HL),A 808C 2B DEC HL 808D 7E LD A,(HL) 808E CE00 ADC A,00 8090 27 DAA 8091 77 LD (HL),A 8092 C9 RET ; ; HIKUSU=HIKUSU+2 ; 8093 0603 HIKUSUADD2:LD B,03 8095 21B382 LD HL,HIKUSU78 8098 7E LD A,(HL) 8099 C602 ADD A,02 809B 27 DAA 809C 77 LD (HL),A 809D 17 HIKUSUADD2_2:RLA 809E E601 AND 01 80A0 2B DEC HL 80A1 86 ADD A,(HL) 80A2 27 DAA 80A3 77 LD (HL),A 80A4 05 DEC B 80A5 C29D80 JP NZ,HIKUSUADD2_2 80A8 C9 RET HIKIZAN =8070 HIKIZAN_2 =8079 HIKUSU78 =82B3 HIKUSUADD2 =8093 HIKUSUADD2_2 =809D HYOJI_LOOP =803F KEISAN_END =8037 KEISAN_LOOP =8028 KEYIN =0216 KOTAE12 =82B4 KOTAE34 =82B5 KOTAE_ADD1 =8084 LED1 =83F8 LED2 =83F9 LED3 =83FA LED4 =83FB LED5 =83FC LEDDP1 =83F4 LEDDP3 =83F6 SEGCG =01C0 START =8000 TISU12 =82AC TISU78 =82AF TISUCLR =8006
さて、プログラムが理解し易くなったところで、いったいルートの計算をどのようにして実現しているのか、その驚くべき、まさに目からウロコの解法を皆様とともに見ていきたいと思います。
それでは順をおって見ていくことにいたします。
最初のところはアドレス82AC〜82B5(置数〜計算結果のためのワークエリア)を00でクリアしています。
XOR A
はAレジスタに00をセットする目的でよく使われます。
次は置数のKEY−INです。
ローマ字と英語をちゃんぽんに使ってしまいましたから、ちょっと読みにくくなってしまいました。
2桁の置数を1バイトのBCD数として置数レジスタの上位アドレス(TISU12、$82AC)に格納すると同時に最終結果の表示とともに置数も表示するためにLED表示用レジスタ(LEDDP1、$83F4)にも格納します。
そしていよいよ計算スタートです。
なんとルートの計算なのに、簡単な引き算しか行ないません。
それで平方根が求まってしまいます。
計算は置数(実は2桁の置数部は10進数8桁の最上位2桁でそれより下位の6桁は全て0です)から、最初は1を引くところからスタートします。
引く数も8桁で最初は最下位2桁に01をセットします。それより上位の6桁は全て0です。
引き算のサブルーチンはHIKIZANです。
サブルーチンHIKIZANの処理内容です。
BCD8桁(4バイト)の数の引き算を下位桁から順に2桁(1バイト)ずつ行なっています。
2進数の演算ではなくて10進数の計算ですから、引き算(SBC命令)のあとでDAA(Decimal Adjust)命令を実行して十進補正を行なっています。
BCD数とDAA(十進補正)につきましては[第10回]あたりで説明をしておりますのでそちらをご参照願います。
減算の結果をDAAで十進補正した結果上位桁からのボローが発生するとキャリーフラグがセットされます。
そのキャリーフラグを使って、つぎの上位桁の引き算のときに、下位桁からのボローとして−1するために、ただのSUB命令ではなくてSBC命令を使っています。
アドレス8078のXOR Aは、最初の下位桁の引き算のときにあるはずのないボローを引いてしまわないために、キャリーフラグをクリアする目的で使っています。
キャリーフラグをクリアするために、XOR命令やOR命令がよく使われます。
ふたたびメインルーチンに戻ります。
最上位桁まで引き算した結果、引ききれなくなってキャリーオーバーになったら計算終了です。
そうではなかった場合には、答えが格納されるレジスタ(2バイト、BCD4桁)に1が加算されます。
サブルーチンKOTAE_ADD1です。
問題はその次に実行されるサブルーチンHIKUSUADD2です。
ここではなにをやっているのかといいますと、引く数に2を加算しているのです。
引く数の最下位桁HIKUSU78に02を加算したあと十進補正のためにDAA命令を実行しています。
その次の
RLA
AND 01
は何をやっているのでしょうか。
これは実に巧妙なテクニックです。
ここは、下位桁の加算結果を十進補正して、上位桁へのキャリーが発生した場合にそれを順次上位桁に桁上げしていく処理をしているのですが、なぜこんなところで一見意味不明なRLA(左ローテイト)命令とAND 01が使われているのでしょうか?
ちょうど時間もなくなってしまいましたので、なぜこんなところでこんな命令が使われているのか、次回までにじっくりお考えになってくださいませ。
[2010.11.10追記]
上記のように書いたのですが…。
私の思い違いであることに気が付きました。
巧妙なテクニックではありませんでした。
このプログラムを書いた方の思い違い(だと思います)に、つい乗せられてしまいました。
詳しくは次回にて。
2010.11.9upload
2010.11.10追記
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