「『情熱』他の人には書けない極上のラブソング」・・・2012/01/21 


1983年11月5日 アルバム「情熱」の発売。

どきどきしながらレコードに針を落とし「Woo Baby」から順番に聴いていく・・・

そして5曲目「情熱」のイントロが始まった時、ドテーン!とひっくり返りましたよね?

僕はあっけにとられ、思わずレコードの回転数を間違えたのかと思いました。

話をいったん巻き戻しましょう。

1982年の王様達のハイキング、秋のツアー。唯一未発表曲として歌われた「情熱」。(替え歌X は別として)

ライブの5曲目に説明も無しにいきなり歌われました。

初めて聴くスローなラブソングは、ドキっとするような歌詞が散りばめられ、

ピアノのリフにドラムのリムショットが印象的にからむ魅力あるアレンジ。

ギターもキーボードも主張することなく全体の空間を創造するイメージ。

いつまでも聴いていたいような、飽きのこないサウンド。

それがファンにとって初めての「情熱」でした。

広島公演がFM広島開局記念コンサートとして生放送されたので、

ライブに行ってないファンにも広く知られることに。

しかし、翌年1983年5月発売のアルバム「マラソン」には収録されませんでした。

この曲が大好きだった僕はとてもとても残念でした。

そして秋発売の新譜のタイトルが「情熱」と発表があった時には

さすがあの曲はやっぱりアルバムタイトルになるレベルのすごい歌なんだ!と大喜び。

そして発売当日・・・上記のようなことに。

ドテーン!

そう、アレンジが全然違っていて、しかもテンポが速い。

エー!うそーぉ!と声を出したかどうかは覚えておりませんが。

日本中で僕と同じようにずっこけた人が多かったと思います。

いえ、ちゃんと言っておきますと、決してレコードのアレンジが嫌いなわけではありません。

当時はとまどいましたが今となってはソレはソレで好きなのです。

しかし、あまりにも82年秋ライブバージョンが良すぎました。

アレンジだけでなく、スローなテンポで歌うことによって、ボーカルがとってもチャーミングなのです。

女の子に、優しく、ゆっくり、なだめるように歌う声が素敵なのです。

レコードの速いテンポではその魅力が半減してしまいました。

速いと歌詞も頭に残らないのです。スローバージョンは一言一言、心に刻まれます。

同時に始まった「ツアー情熱」では、レコードと同じ速いバージョンで演奏されました。

その後一度もライブで聴ける機会はありません。

こんなにこんなに極上のラブソングなのに。

  「情 熱」作詞作曲 吉田拓郎

一緒に暮らそうと思ったことも
あるけどただ何となく このままの方が
自然な二人の様な 気がするし
別に誰かに迷惑をかけるわけじゃなし
お互いに 違う形で
ここまで生きてきて 急に肩を寄せ合えば
しあわせが くるだろうか
君は僕の前に 好きだった彼と
今と同じ気持ちに なった事ないか
僕もひょっとしたら 前の恋人に
好きだよって一度や二度は
ささやいた筈さ

Oh まだまだ 二人は 苦しまなきゃね
まだまだ 二人は 苦しまなきゃね

一緒になってあげないからと言って
そんなに深い意味が あるんじゃないよ
愛してるって口に出して 言ったりする事は
別れる事よりも 罪深くはないか
今はだけど 他の誰かと
過ごしたりするよりも
このままでいるだけで
きっと いいんだから
縛りあう事は楽さ 結婚すればいい
そんな決まった形は今 二人に似合わない
君の中で僕がもっと 大きくなるとか
僕の中で君がもっと
変わるかもしれないし

まだまだ 二人は 確かめあわなきゃね
まだまだ 二人は 確かめあわなきゃね

雨の日に大好きな 車を走らせ
晴れた日に君の方は 町へ出かける
お互いに充実した 一瞬があれば
今は僕達このままで いいんじゃないか
君の住む 部屋のカーテンは
どんな色だったっけ 今は君の好きな色が
きっと 似合ってるよ
電話の向こうで君 少し怒ってるね
だけど明日会う時は キレイにしておいで
今は何も決める事が できないけれど
このままで居たい気持ちが
強いだけなんだ

Oh まだまだ 二人は 愛しあわなきゃね
まだまだ 二人は 愛しあわなきゃね

まだまだ 二人は 確かめあわなきゃね
まだまだ 二人は 確かめあわなきゃね

まだまだ 二人は 一人一人だからね
まだまだ 二人は 一人一人だからね

(※レコードは最後の「確かめ〜」と「一人一人〜」が逆)


絶対他の人には書けないラブソングだと思うんだな。

普通「情熱」という言葉の響きから想像するのは、

たとえば、赤く燃えたぎる、激しさやスピード感などであったりします。

しかしそのイメージとはほど遠い歌詞やメロディ。

直後に発売された本「俺だけダルセーニョ」に載っている、

「情熱(俺の人生へ)」という項を読みますと、最後にこう書かれています。

失っていけないのは、生きている実感。

いまよりももう少し、ちょっとだけでも幸福になりたいという願望。

それらを全部ひっくるめて情熱というんだ。

そういうんだよ、俺の人生においてはネ。

情熱の定義はこうだと書いているのですから、その「情熱」をタイトルにした歌で表現したかったのは

生きている実感であり、少しでも幸福になりたい願望だということでしょう。

人生観も含めた絶品の極上ラブソングだと思うのです。

少しずつお互いを知っていくドキドキ感。

関係をどう育てていこうかワクワク感。

まだ感情がどこに転がっていくかわからない危なっかしいハラハラ感。

そう、「まだまだ二人は確かめ合わなきゃね」なのです。

そしてその素晴らしい楽曲を的確に最大限に表現したのが1982年秋ツアーのスローバージョンだと思います。

FMで生放送されて本当に良かった。

これが無かったら完全にオクラ入りにされてたかもね。

何度聴いても飽きのこない気持ちのいい音です。

どうぞ目を閉じて聴いてください。

もしアルバム「TAKURO YOSHIDA LOVE SONGS」が作られることがあれば

このバージョンは外せないんだけどな。

二枚組のラストに入れたいね。

戻る