2015.4.13
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トランジスタでCPUをつくろう!
トランジスタで8080をつくってしまおうというまさにびっくり仰天、狂気のプロジェクトです!
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見事にできましたら、もちろんTK−80モニタを乗せて、それからBASIC、CP/Mを走らせましょう!
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[第37回]


●オープンドレインNAND回路(4)

前回からの続きです。
下の画像は前回お見せしましたオープンドレインNAND回路の出力波形です。

出力(下側、CH2)には負荷抵抗としてRL=1KΩをつけました。
出力がHの期間は2SA1015がONの期間です。
回路図を普通に解釈しますと、それは2SA1015のエミッタベース電流によって入力コンデンサが充電される時間のはずなのですが。
しかし、2SA1015のエミッタベース電流でコンデンサ(22pF+22pF=44pF)を充電する時間にしては余りに長すぎます。
コンデンサは瞬間的に充電されてしまうはずなので、すると2SA1015はOFFにならなければならないはずなのに、どういうわけか、しばらくの間ONになったままであるようにしか思えません。
そんなおかしなことがありましょうか。

その疑問を解く鍵は下の画像にありました。

この画像も前回お見せしました。
2SA1015のベース端子部分の波形です。
他の画像に対して垂直軸を拡大してあります(他の画像は垂直軸が2V/divですが上の画像は1V/divです。1:10プローブを使っています)。
ちょうど画面中央が入力がHからLに変わってコンデンサが急速に充電されたところで、そこから約200ns近くは約4.5Vのフラットな状態が続いています。
それからゆるやかにカーブをえがいて電圧が上昇してほぼ水平になったところが+5Vです。
この約4.5Vのフラットな期間にH出力が出ているようです。
言い換えれば、そのフラットな期間中2SA1015はONであり続けているようです。
この奇妙なベース波形は一体何なのでしょうか?

●少数キャリアの蓄積効果

そういう言葉があることは知っておりましたし、それがバイポーラトランジスタの動作速度を著しく低下させる原因であることもなんとなくわかっていたつもりでありました。
しかしこのところ書いてきておりますように、2SA1015がONになったときの立ち上がりの速度アップにばかり目がいってしまって、OFFになったときの立ち下りの速度についてはまったく何も考えてはいませんでした。
ONのときの立ち上がりを急にするにはスピードアップコンデンサをつけて一時的にベースに大きい電流を流さなければならない、ということは理解しておりましたのに、ベース電圧をLからHにしたらただちにエミッタコレクタ間がOFFになる、と感覚的にそのように思い込んでしまっておりました。
実にうかつな話でありました。

本当はONのときの立ち上がりと同様にOFFのときの遅延も大きいのですが、最初に取り組んだオープンドレインではないコンプリメンタリ型のNOT回路では、2SA1015がOFFになると同時に2N7000がONになるため、2SA1015がOFFになるときの遅延を全く意識しないままできてしまいました。
そのうちに2N7000の存在を忘れてしまって、つい2SA1015がOFFになるときにはすぐに出力が遮断されるかのようなイメージができあがってしまっておりました。

なんでもこれはバイポーラトランジスタ(およびダイオード)に特有な現象なのだそうでありまして。
トランジスタがONになると、そのON時間の間に少数キャリアなるものがベース領域に一定量に達するまでどんどん蓄積されるのだそうであります。
キャリアというからには電荷の運び手ということのようでありまして、ベース電圧をいきなりエミッタと同じ電圧にしてもエミッタコレクタ間はすぐにはOFFにならずに、その少数キャリアが抜けてしまうまで、エミッタコレクタ間に電流が流れ続けるのだそうです。
その少数キャリアを抜くには、PNPではベース電位をエミッタ電圧を越えて高くする(NPNではマイナスの電位を与える)ようにするか、できるだけ小さい抵抗をエミッタベース間に入れるようにします。

エミッタベース間の抵抗を通して少数キャリアが抜ける?
おお。
それで合点がいきました。
あの約4.5Vでしばらく続いたフラットな期間。
そのときにベースの少数キャリアが1KΩの抵抗を通じて抜けていたのでした。

あの奇妙なベース端子部分の波形はそういうことだったのでした。
入力がHからLに変化すると2SA1015のエミッタベースを通してコンデンサに急な充電電流が流れて、エミッタコレクタ間がONになります。
コンデンサは急速に充電されて2SA1015がOFFになるベース電圧の約4.5V近くまで電圧が上昇すると、これは推測なのですが、おそらくコンデンサに充電する電流はそこで一旦止まり、それまでとは逆に1KΩの抵抗を通してベース内の少数キャリアが抜ける向きに(1KΩを通して+5Vからベース端子に電流が流入する向きに)電流が流れ、それが終るまでベース端子の電圧は4.5V付近のままになる、と考えられます。
そしてその間、エミッタコレクタ間はONであり続けるため、NANDの出力はHを維持することになります。

やがて少数キャリアが抜けて、+5Vからベースへの電流がなくなると、今度は+5Vから1KΩを通してコンデンサに充電電流が流れはじめます。
この電流は2SA1015のエミッタベース電流よりもずっと小さいため、ベース端子部分の電圧はゆっくりとなめらかに弧をえがいて上昇します。

いやあ、しかし。
そのように理解した今でも、この少数キャリアの蓄積効果なるものは、実にすごいものでありますね。

それはそれとしまして。
[第34回]で、H出力の時間がちょっと長いことが気になったため、「コンデンサの値を小さくするとよいかも」と書きましたが、確かにそうすることで少数キャリアの蓄積効果を少なくすることはできそうです。
しかし1入力あたり22pFというのはだいたい下限のように思いますから、それはあまり良策ではありませんでしょう。
もしこのH出力の期間を短くするのでしたらプルアップ抵抗の値をもっと小さくするべきでありましょう。

本日も時間がなくなってしまいました。
次回に続きます。

トランジスタでCPUをつくろう![第37回]
2015.4.13upload

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