土器文様の解読
土 器 文 様 の 解 読
半人半蛙文有孔鍔付樽 |
国重要文化財 |
藤内遺跡 | 高さ51p |
当時の人々が何を思い、どのようなことを考えていたのか、誰もがいちばん知りたいのではないだろうか。井戸尻考古館ではここ10年来、そうした精神的な背景を探ろうということから、とくに中期縄文土器の文様解読という分野を開拓しつづけてきた。初期は、個々の文様をとり出し、それが何であるかを同定するといった解読が主流であった。それ以後は、図像学的な方法によって、文様の意味と背景を論証しようとするもので、これらが研究の基礎になっている。ほんの一部であるが紹介したい。
基本形のひとつは、蛙の図文と蛙と人間の間の子みたいな半人半蛙(はんじんはんあ)の精霊の像で、それらは双環で表わされた大きな両の眼と3本指の手を持ち、紡錘形や円い胴体をしているのが特徴的である。3本指の手はふっくらとし、赤ん坊の手首のように括(くび)れて瘤(こぶ)状に盛り上がり、それに紡錘形の蛙の背には、女性器の意味が重ねられているようでもある。
ところで、似たような図像は中国黄河流域の仰韶(やんしゃお)時代の彩陶、あるいは殷周時代の青銅器にあり、漢代の文物では、蛙は月の中に描かれていて月の不死性を象徴している。また漢代に伝えられた古典には、月中には蟾蜍(せんじょ)と呼ばれるヒキガエルが棲むと記されている。これらの図像を照合すると、当時は太陰的思想が基層を成していたことがわかる。
そして、このような関係を縄文中期の土器文様と対比すれば、蛙文は同じように月の不死性を象徴していると判断でき、新しい命を産む女性の出産力は豊穣の象徴と考えられていたようだ。月と蛙と女性の複合からなる太陰的思想は、新石器農耕文化に特徴的な世界観であったと解釈される。
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