〜サバッシュ2 メヒテの大予言〜
機種:Windows98ほか、エミュレータ「Neko Project」使用
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●コレ、ソウル&ソードよりも古いんだね

 長いことかかりましたが、ようやく解きおおすことができました。このゲームはかつてPC98にて発売されていたロールプレイングの名作でして、私が入手したのは有志の方々の熱意によって「再生」された復刻版です。どうもこの「サバッシュ2」という作品は当時全然ふるわなかったらしいんですね、ただ遊んだ人々の多くは「素晴らしいゲームだった」と、そう口を揃えたようなのです。そんな人たちの中から「あれだけのもの、知られずに朽ち果てさすは惜しい」とばかりに復刻嘆願が始まり、のちに当時の制作者からの協力もあってエミュレータを介しての復刻となった、そういった事情のようですね。

 まあ細かいことは当事者ではない私には分かりませんけれども、でも実際に遊んでみてこれは言えます。「本当に素晴らしいゲームである」と。


●「円丈のドラゴンスレイヤー」、読んでみたいな

 もともとゲーム好きな噺家の三遊亭円丈師が、当時からすでに感じていた日本のロールプレイングの方向性への疑問、思いのたけを、当時コラムを連載していた雑誌社の企画によって形にすることになった。そんな感じの成り立ちのようですが、一度触れてみると「なるほど、確かにこういうものが『冒険』よな」と納得できる、そういう世界です。

 基本的にはシナリオ主体の、特定の目的に向かってバリバリ旅を進めていくタイプのゲームですね。主人公は「プレイヤーの分身」ではなく、彼には彼自身の意志、感情があって、イベントに遭遇するたびに彼は都度気持ちを吐露します。ドラゴンクエスト初作において、主人公がいろいろリアクションを勝手に返す、イメージとしてはそんな感じ。これだけなら、凡百の自称「ロールプレイング」となんら変わりありませんね。では、何が他と違うのか?


●今日は侵略、明日は交易。明後日はメメルに行ってみようか

 まず、ゲームの仕組みそのものが違います。はじめに、こちらでは「旅の中触れるもの総てが人を育てる」という観念のもと、ほぼ総ての行動に経験点が加算されます。人と話し、頼み込んでみたりチップを渡してみたり、脅かしてみたり。買い物にだって、町中で行うボランティアにだって、軍の運営資金を賄うための交易品採集にだって経験点が加算されていくんですね。人と話し、情報を得ていくことで問題や事件が浮かび上がることもありますから、そういったイベントを探すという面においても会話が楽しくないわけがありません

 次に、「特定の日にちに世界が滅びる」という(放置しておけば確実に実現してしまう)予言の成就を阻止するという目的のもと、旅していられる時間には限りがあります。そして時間の重みを実感させるために、「スタミナ」、一日に行動するための元気という、私の知る限り唯一のシステムが実装されています。このスタミナはマップの切り替わるポイント、すなわち町や洞くつ、敵の拠点や交易品の採集ポイントに入るたびに消費されていき、最終的にゼロになってしまうと町に入ることすらできなくなるのでその日は野宿、そういうことになりますね。

 この「旅の期限」と「一日には限りがある」という要素、そして「自分ができること、すべきこと」の多さを考えると、必然的に「宿を出てから今日は何と何をこなし、そして最終的にどこで宿を取ろうか」というような、一日の予定を考える必要が発生するのです。地図と資料(パッケージに同梱されています)をよく睨み、「今日は、何するかー」と考える、これは非常に楽しいことでした。


●ここでお前が銃を抜いてくれたのは助かった、直接始末できるからな!

 そして今も言いましたが、とにかく目的達成のために必要なこと、そしてそれをはるかに上回る勢いで「やらなくてもいいけど、できること」が多いのです。目的達成のためにはまず敵首都の門を開かなくてはならない。この門は「勇者の鍵」がある重さ以上になったときにだけ開き、そしてその勇者の鍵は敵国の各拠点に保管してある、となればまず敵拠点の制圧は義務になりますね。ほかにいくつか、いざ最後の戦いになった時に必要になる品がいくつかありますので、それも旅を進めながら見つけていくしかない。

 で、さっき言った通り、あちこちには問題が埋もれています。ある交易所では、装備部受け付けのお姉ちゃんが「恋人が行方不明になった」と嘆いていますし、ある町ではかつて貴族だったという女性が悪漢に苛まれているものの、一応正当な権利を持って悪漢がその女性を手許においているため誰も手が出せないという事態になっていたりします。またある町ではとある僧侶が不当な扱いを受けていますし、ある村では老人がかつて自分では見つけられなかった秘境を探してくれる若者の到来を待っています。

 これらはもちろん破滅を阻止するのにはまったく関係のないことですが、でも遊び手の介入がなければ事態がまったく進展しない、そこまで追い込まれている人々です。そういう光景を見て、さてあなたの心はどう動くのでしょうか?


●働かざる者喰うべからず

 もう一つ、自分達はかなり早い段階でのある時点から、自軍の運営資金を必要とするようになります。一日の稼ぎの中から雇った仲間達に賃金を支払い、その残額から艦隊や自身たちの装備を整えていかなければならなくなるんですね。それに、自分を含めた仲間たちの食事も面倒みないといけません。本来ならばリーダーはこういうことも考えないとならないんでしょうけど、どうもここまで気が使われているゲームは見たことないですね。

 ということで、まずふつうは資金確保の道を探すだろうと思うのですが、このゲームは戦っても資金入手には繋がらないんです。戦うのには火薬が要りますし、当然火薬とても無料ではありません。そして、戦いの結果として敵艦隊や敵兵、果ては原生動物あたりから得られる資金は極めて少ないとなれば、戦闘によって資金を稼ごうとするのは愚の骨頂となるはずです。ああ、そう考えると、このゲームは戦闘はただの味付けにしか過ぎないんですね。他のゲームなんかだと経験も資金も戦闘でしか得られませんから延々やりたくもない戦闘をさせられることのほうが多いですけど、このゲームではどちらも他で入手できますもんね。

 うん、前置きが長くなりましたけど、要するに金が欲しくば働けぃと、そういうことです。このゲームでは序盤、あることをすると交易ギルドへの入会権をもらえます。で、交易所間で品物をやりとりする……でもいいんですが、一番早いのは「冒険」、人跡未踏の地を探し、誰もまだ見たことのない、交易品の産地を発見する。産地を見つければ当然元手はかかりませんからただ拾ってきた品物を売り付けるだけ、効率もいいですよね。交易品産地はほぼ総てが隠されていますし、情報もほぼありませんから、見つけるため、ひいては資金を稼ぐためにはそれこそ自分の足で世界を巡らないといけません。

 なお、交易ギルドでは会員の実績により地位向上の制度を設けていますので、実績をたくさん上げれば地位も、交易による儲けもどんどん増えていきます。奮ってご参加下さい


●ときめき某はどうでもいいんですが、その方法論は貴重なものと思いますから

 今までお話ししてきた事がらは、それはもちろんシナリオがある以上シナリオクリアのために必須の行動は出てきてしまうのですが、それ以外はすべて参加するのもしないのも、どのイベントから参加するのも遊び手の自由です。そしてお気付きでしょうか、これは実はすべて物語の話ではなくゲームの仕組みの話であると。

 手許の本に、「なぜときめきメモリアルが受けたか」という理由を説明してくれる記事がありました。

 おでんに例えてみよう。鍋の中はイベントという具が緩やかな規則性に支配されてぶち込まれている。そしてプレイヤーには一本の串が手渡されている。プレイヤーはその串の長さが許す範囲で串を刺し入れ、チビ太のおでん串のごとく具を数珠つなぎに得る。おでん串に刺さっている具の並びは毎回違っているということもお分かりだろう。この場合の数珠つなぎに刺さった具がイベントであり、そのときの串の状態そのものがプレイヤーの受け取るストーリーだ。

 そしてイベントとイベントの間に横たわる断絶をプレイヤーが自らの想像力で補完することにより、没入度を増すことになる。

太田出版「超クソゲー」、93ページ阿部広樹氏のコメントより引用


 非常に納得できる、うなずける内容ではないでしょうか。まあ私はときめき某はやったことないしその気もないから分かりませんけど、結局はウィザードリィの面白さもこういうところにあった、とこの話は続いています。本来ロールプレイングとはこういうものであったのだと、ウィザードリィのおもしろさも本質はこういうことだったのだとね。

 これも、物語云々の話ではなく、実はゲームシステムの話題です。イベントのすべては(多少の関連こそあれ)独立していて、その取捨選択も「取」を選択したイベントをどんな順番で繋ぐのも遊び手の自由。それにより、方向性こそ決まっていても物語は自分だけのものとなりうる。自分の意志で決めて自分の手足でたどった「自分だけの物語」、昔は皆それを求めてロールプレイングをしていたはずなんですけど……。


●アー分かった分かった、もういいからこのシーン飛ばさせろや

 円丈師がサバッシュ2復刻にあたってお寄せになったコメントのなかに、「ゲームの感動とは、ユーザーがゲーム上でした体験、それ自体が感動なんです」というお言葉があります。そうですね、私もこれは強く感じていました。いつか、ドラゴンクエスト7の辺りでお話ししているはずです。与えられたお仕着せの感動などではない、本当に揺さぶられた出来事。これこそが真に素晴らしいものである、私はそう思っています。

 ちょっとこのお話とは関係ないかも知れませんけど、私しばらく前にファイナルファンタジーの5を遊んでたことがありました。10年くらい前はすごく楽しかったものでね、今遊んでも面白いかな。そう思ってたんですが、……進めていくうちに、微妙な違和感が出てきました。「アレ、こんなにつまらないゲームだったっけかなぁ」 物語を進めていくうちこの違和感はどんどん大きくなっていき、最終的には続行の意志が完全に消滅してしまいました。

 理由はね、制作者が押し付けてきた「いいかお前ら、ここは感動するところなんだからな?」というイベントの数々、あからさますぎる主張の数々に吐き気がしてきたから。あまりに安い自己犠牲、「いい子」すぎて却って不気味な献身。理想的すぎて人間らしくない、登場人物の数々。1度2度ならばまだ黙って見ていられたのですがね、5度も6度も7度もくり返されればさすがに嫌にもなります。最終的には「気色悪りぃからあんまりいい子ぶるなや。ったく、これだからお嬢ちゃんって奴ぁ」などと毒づく程度にまでなっていました。ガラフ以外のメンバーにはまったく愛着もありませんでしたね、気持ち悪くて。

 ロールプレイングを遊んでいて心に残った印象の重み、それはイベントでエアリスが死んだだのイベントで飛竜が身投げしてフェニックスに化けただのとそんな押し付けられた事がらよりも、むしろ手塩にかけて育てた、文字どおり愛娘と呼べたビショップが消滅したとか、ロンダルキアへの洞くつの落とし穴を姉と2人してメモし、地図を作ったとか、そういう自身の苦労や経験に直結している事がらのほうが大きいに決まっています。そう思っていたところで先の円丈師のコメントを拝見し、「俺は間違ってなかった」と本当に思ったものです。


●メモとっておくと、次からのプレイに反映できますしねー

 そして、円丈師は常々「感動さすにも、ゲームシステムがなっていないとダメだ」と思っておられるようですね。「古いシステムに3D、イベントだらけの今のロールプレイングはとても退屈。陳腐化したこけ脅しのロールプレイングになど、誰もついていきません。その結果つまらないゲームばかりになってしまって、今は当然のようにゲーム不況です」と厳しいことを言っておられます。そういった部分の主張をよく練り込み、開発元の技術者たちとさんざんバトルを繰り広げながら四苦八苦して作り上げたシステム。それが、さっきまで長々しゃべっていた、他に例のないゲームシステム、「どんな乗り物に乗っても乗らなくても、全部遊び手の判断に任されている自由な遊園地ロールプレイング」なのでした。

 紹介ばかりじゃなんなので、システム面における個人的な感想も述べてみますか。時間制限とスタミナシステムによる行動制限は、遊び手に常に一種の緊張感を持たせ、「だれる」ということをさせません。町に一度入ればその町から情報や各種収入などを搾り取れるだけ絞り取って翌日からの行動、早ければ町を出てからの行動に反映させていく。さもなければ、一日にまともな成果を残す事すらおぼつかないでしょう。少なくとも、他のゲームのように漫然と旅をしていてはたとえもっとも制限時間に余裕のある初級コースですら解きおおすことはできない。そういうゲームです。

 ただね、怖がることはないんです。情報をこまめにメモし、「今やれるだけのことは何か」をよく考え、手許にある情報を整理して次に自分たちは何をなすべきなのか。これを考えるのが、とても楽しいゲームですから。言い忘れてましたけど、各地に星のごとくちりばめられたイベント群は、どれも非常に完成度の高いものばかりです。そういうものを探し、見つけ、精緻な情報収集と果断な行動により解き明かしていく。やがて遊び手は、新たなイベントや交易品産地の発見を楽しみにしてそこかしこを飛び回る自分に気付くはずです。未だかつて、情報をメモすることが必要だと本気で感じ、そしてそれを実行するということに何一つ苦痛を感じなかった。そんなゲームは一つだってありませんでした。それをさせてくれたのは、楽しくさせてくれたのはこのサバッシュ2が初めてです。


●悲しみの連鎖

 じゃあそろそろ、イベントのお話。星の数ほど、と今言ったイベントの数々は、気の抜けるような間抜けなお話から非常に悲しいお話、また後味の悪いものを残すお話など、粒ぞろいです。その一つ一つが、口先だけではない重みを感じさせてくれる。数だけでなく、質でも素晴らしいものがあります。

 例をいくつか。前提として敵の国は世界各国を侵略し支配下においています。そして制圧した国の信仰していた神を弾圧し、僧侶は容赦なく処刑していくということをしているんですが、とある町では僧侶のような風貌をした男が日がな一日一ケ所に座り、むっつりと黙りこくっていました。

 そしてその僧侶宅の隣に住む漁師は、そんな彼を「もしかして、敵国ゴルドのスパイなのではないか」と怪しんでいます。ところが、事情が深く理解できてくるにつれ、実は漁師のほうがスパイであったという確証が取れます。僧侶は密かに礼拝堂を作り、信仰を続けていたもののその漁師の目が光っているために大っぴらには動けず、やむなく座り込んでいたのだと。その僧侶の隣には、涙を流しながら神に祈る町長の姿。町長は言いました、あの漁師によってわしの妻と娘は殺されてしまったと。

 結局その漁師は、「知った者は生かしておけぬ」とばかりに襲い掛かってきて返り討ちとなり、死んでいきました。「これでこの町も静かになる」 そう言って去ろうとする主人公、マジョーンの前に、一組の親子が立ちます。母は「あの人はいい人だったのに、いくらゴルドの手先だって言っても殺すことはなかったじゃないか! あの人を、返しておくれ!!」と叫び、子は「人殺し!!」と言い捨てて走っていってしまいます。マジョーンは、何も言い返せませんでした。


●「船」は、お前のことを忘れないよ……ずっと

 また、ある村において、そこは何ものかの呪いにより近付くだけで自分が何者であるか、なんのためにそこを訪れたのかをすべて忘れてしまう土地となっていました。もちろんマジョーンたちもそこにいる間は「俺たちゃ誰で、何しにここに来たんだ?」となってしまうのですが、その村には非常に楽しそうに談笑する2人の青年の姿がありました。「なんか目的があってここに来たんだろうけどな、忘れたよそんなことは。今はこうやって、気の合う親友と楽しくやってる。幸せだぜ、俺たちは」とその中の軍服を着た男は笑いました。

「お前も、こうして来たなら友だちだ。船でここに来たみたいだから、お前は『船』だな。よろしく、親友」

 さて、当初の目的として、マジョーンたちはとある火薬製造師を追っていました。彼の作る火薬が必要なのです。彼の故郷へ訪れてトラブルを解決し、家族に話を聞いてみるも、彼は敵国ゴルドの兵士に追われてとある村へ向かったきり消息が分からなくなっているとのこと。先に訪れた、呪いの村でした。ということは、あの軍服の青年は!

 それでも、その火薬はどうしても必要なものです。神々の願いもあり、なんとかその村の呪いを解きおおせたマジョーンたちに、かの軍服を着た男は言いました。「俺は、思い出したくなどなかった。思い出さなければ、あの火薬師もお前も友だちのままだった。しかし、もう遅い。思い出したからには、俺は任務に基づきお前達を殺さなくてはならん!」 記憶なんか関係ない、俺たちはそれでも友だちのはずだというマジョーンの声にも耳を貸さず銃を抜いた彼は、しかし銃弾をわざと外し、逆に銃弾を受けて倒れます。「俺の手で、友だちなんか殺せないよ……本望だ」 そう言って彼は笑い、マジョーンの腕の中で目を閉じました。


●ほんの一言の「重み」

 こんな感じなんですよね、しみるイベントは本当に重い。世界海戦において、どこかの司令官は言いました。

「マジョーン! 俺は、ようやく分かったよ。軍人の仕事は、死ぬ事だってな……ニヤッ! さあ、仕事をするか!!

 原文をほぼそのまま載せましたが、これは本当に堪えました。こちらの艦隊には勝てないと、それが分かった上で自分の本分を果たそうとする。彼等が守ろうとするもの、それは一般には悪に映れども、いや、まごうかたなき悪そのものだったとしても、彼等にとっては非常に重いものだったのだと、そう感じられる一言でした。短いテキストでしたが、彼の笑みと想いはしっかりとこの心に残りました。

 やがて世界海戦は、海を赤く染めて決着します。マジョーンたちはその奥にある指令部まで余勢をかって侵攻、そのまま目的の品を入手してきますが、そこでもまた多くの勇者たちをその手にかけることになります。

「そうか、彼等も……勝てぬから戦うなとあれほど言ったのに……彼等は、わが国の宝じゃった。その心こそが、宝じゃった……」
「……待て。たとえ御命令がどうであれ、彼等の魂のために、わしは貴様らを生かしてここから出すことはできん! 覚悟せよ!!」

 とても、悲しい戦いでした。滅びたものは美しいが、滅びるものは無残。信じたものに殉じてしまった彼らには、相応しい形容と思います。


●婆さん下品だなあ、しかし……

 まあ、こんな悲しい話ばかりではなくて、笑えてしまう話もあります。そういう話だと、例えば私の選んだマジョーン、王子では神の血を受け継ぐ姉妹のどちらかと結婚できる可能性があります。これは通常の結婚、そこらにいる女性に声をかけて指輪と寝台を用意するだけのものではなくて、しっかりしたイベントとしてていねいに作られているんですね。王子はその神の血を継いだ一族のうち、かつて一族を捨てた英雄の子孫なのだと。だからお前は、その血を一族に返し、子孫を繁栄させてくれ。長老の婆さんにそう言われました。

 私は正直なところこれにはひどく反発を覚えまして。確かに姉妹はどちらも美人だが、顔だけで相手を選ぶのは相手にとって失礼だし、なにより血を残すため「だけ」に結婚などするつもりはない。我々は道具ではなく人間なのだから、自分はともかく姉妹それぞれの気持ちを考えて結婚とやらに踏み切りたい。自分は、旅のなかでもし気持ちが動く事があれば受け入れても構わないが、何より彼女らの気持ちを優先したい。そう強く思いましてね、で思いきり簡単にまとめて勤め先の若いの(日頃愛情がどうとかうるさい男です)にこの話をしてみたら。「顔がよければ何だっていいですよ」 ……お前それ本気で愛情とか思ってるのか、所詮その程度なのかと大揉めしましたよ。まあ、彼がどんな人生たどろうが知った事でもないですけどね、ケッ!

 それで、実生活でそんなこともあったわけでイライラしながらその村に行ってみれば、その婆さんが「どうだ。エキスデンの娘と結婚する気にはなったのか? ヘヘヘッ、覚悟しとけよ。必ず結婚させちゃうぞ。ゲッヘヘヘッ!」とあまりにもストレートな感情をぶつけてきましたもんで大爆笑してしまいましてね。何下品に笑ってンだよ婆さん、と。結局のところ、結婚はすることなくゲームを終了させたんですけども。


●「やり方が下手では?」 婆ァ妙なこと言うな!!

 でもせっかくだから、イベントだけは見ておくかなと思ってやり方を調べて姉妹それぞれの分を見てみました。姉妹のどちらも王子に想いを寄せてた、という凄い展開だったのは驚きましたが、なによりこの婆さんの豪傑ぶりが炸裂しましてね。あれは一般に「燃え」るキャラクターでしょう、間違いなく。

 それぞれの気持ちを確認し、恋の成就と肉親への愛と、大きな感情の揺らぎを前にただ泣くしかできない娘に、婆さんは言い放ちます。

「ホレそこまで、決まったんだから気が変わられてはたまらん! 汝ら2人はどんなときも子づくりに励み、子供を1ダース以上作ることを女神に誓うか? 誓うな。ハイ、よろしい。結婚成立!!」

 ……婆さんシレっととんでもねえこと抜かしてますね。ここまで露骨だと、もう笑うしかないというか、逆に好感さえ抱いてしまいます。

 この姉妹、どっちも非常にいい娘なのでファンもいそうですね。姉のリドミラはさばさばした性格だけどいつでも恋には奥手、そんな感じの娘で妹のソランは田舎暮しが長かったため世間知らず、おっとりしてるけどいざ恋がかなうと突っ走る、そんな感じ。結婚式のイメージはそれぞれ別に描き起こされてて、非常にきれいです。俺は実際どっちも選ばなかったというか、婆さん仲間にしたらめっちゃ強そうとか思ってましたけど。……いや、このサイトでこんな類の話なんかするとは思わなかった。まあ、なんにしろ見ておく価値はすごくあるイベントですね。マジで婆さん笑えるから

 いろいろしゃべってきましたけど、それぞれのイベント、もちろん今まで言ってきただけじゃなくてほかにもいろいろ味のあるイベントが山ほどあるんですが、それらをして強い味を持たせているのはやはり製作者の方々のセンスなんだろうな、と思います。テキストそのものにも妙な味があって非常に楽しいですし、そもそもそれらを構築するセンスが上っ面だけのものではありませんからね。そういう意味ではかの怪作にして傑作「戦国TURB」も似たようなものかも知れません。あれも一見馬鹿なようでいて根底に悲しみの感じられる部分がありますし、私はあのゲーム大好きですよ。


●えと、もしかしてこのゲージは酸素ゲージ? ……あ

 えーと、まああんまりイベントなんかについてしゃべりすぎてもなんなので、そろそろ厳しいところとか泣きながらつついてみます。だいたいここで変にしゃべりすぎると実際遊んだときの楽しさが薄れますもんね。ごめんなさいね。

 まず初めに、遊び手が扮することになる過去の英雄・マーディ(前作の主人公です)は神プートスの依頼により、メヒテなる邪神の出した世界崩壊の予言を阻止することになります。そしてプートスから「マジョーン」の名を与えられ、3人の生まれ行く魂のひとつとその輝きの長さを選んで現世に赴くのです。この生まれ行く魂のひとつが私の選択した王子ということです。

 そして、無事生まれ落ちたマーディ、改めマジョーンは舞台となる世界「パルチャップ」での生まれの儀式、カフタンを通過しなくてはなりません。このカフタン、マジョーンの初期能力を決定する重要なミニゲームなのですが、これがマニュアルにもあるとおりに極めて難易度の高い関門でして、特に最初に待っている第一のカフタン、これは失敗即ゲームオーバーという驚愕ものの仕様です。もししくじると「この子は生まれなかったというお告げが下った!」などと恐るべき宣告が出されて両親が泣き濡れる、あまりにもショッキングな結末になってしまうのです。いえ、別にゲームオーバーといっても即タイトルにバックではなく「カフタンに再チャレンジ」という項目も出てくるのでさほどストレスは溜まらないんですが、最初のチャレンジでは操作方法を抽象的にしか教えてくれないためまず確実にお陀仏ですね。しかも成功させるだけだと体力がべらぼうに低くなったりして大変ですし。

 今回の復刻にあたり、一応救済策は用意されていますのでヤバイと思った方はそちらを使えばいいんですが、これはかなり強烈な要素でした。当時はひっくり返った人も多そうな気配です。もうあそこまで行くとギャグの世界ですね、笑えてきます。


●ここで方向キー入りっぱなしになったら笑うよな……あ

 もう一つ。これはエミュレータという環境も少しだけ関わってくるのですが、このゲームは先にお話ししているスタミナシステムの影響でポイントへのうかつな出入りはできません。用が済んでないのに町から出ちゃった、何の気なしに船を転がしてたら発見済みの交易品産地に入ってしまったなんてのもよくあることなんですが、時折エミュレータの性質上発生する不具合とのことで、特定のキーが押しっぱなしになることがあるんですね。町の端っこの方を歩いてたらキーが押しっぱなしになって出て行ってしまった、とかもよくあります。

 この現象で一番まずいのは、ゲーム中最大の難所と言われる「テニオン大灯台」。接触即ゲームオーバーというポイントや移動のたびに高確率で体力を削られるポイントがごろごろしてまして、そんなところを移動しているときにこんな不具合が発生してゲームオーバー、これは泣くに泣けません私は3回やりました。特にね、この移動するたび体力が減るって場所は目的達成寸前なんです。そこまで来て、そんな自分の操作とぜんぜん関係ないところでゲームオーバー、さすがにこのときは嫌になりましたね。つうか、ああいうめちゃくちゃな作りになってるテニオン大灯台、あそこそのものがまずいと思いました。ねー、最大の敵が地形ってのはなんとも。テニオンなんか虫けら同然でしたよ。このゲームは一箇所除いてポイント内部ではセーブできないんだから、せめてもう少し容赦してくれてもいいじゃん。


●分かるか普通、あんなもん……

 ああそうだ、これは厳しいというより味なんですけど、常人の発想では発見なんかできやしない、そういうポイントがいくらかありますね。とりあえず人に聞いたりネットで調べたりして無理やり行き着いたポイントが3、4箇所くらいあったかなあ、アレは全部そういうヒントなしではどうにもできませんでした。そうそう、もちろん今回も攻略ヒントは基本的にナシですよ。

 えーとね、以下に自力で発見できなかったところを挙げておくんで、もしこれから「ノーヒントで頑張るぞ!」っていう人、完全自力で見つけられたら連絡下さい。行きつけの居酒屋で一杯ご馳走しますよ、マジで

  • ムレーッとする小川(ついでにゲブショップ)
  • ブバオという名の洞窟!? の、さらに奥にある洞窟
  • 気づかなかった森
  • ついでに、ラープマンと直接戦闘にいたる手段

 まあ、こんなところでしょうか。もちろん、あることすら気づいてないポイントや事がらはもっともっと山ほどあるはずですので、そういうところはこれから見つかるかどうか怪しいもんですけどもまあ探してみますかね。ああそうだ、ブズギと極上ラピスラズリも見つけられなかった。


●サラスヴァティは河の女神でよかったと思います

 そういえばこのゲーム、多神教の世界でしてまあ立派なのから変なのからごろごろしてるんですけども、時々驚いてしまうような名前があるんですよね。こちらの世界にも存在し、名を残している神々の名前が。百腕の魔神ヘカトンケイルとか、正義神シャマシュ、死神モト、河神サラスバティ、海神ティヤマート、などなど。あとなんか72柱の魔神の1柱の名前だとか。特にティヤマートは最初気づかなかったので、いざ理解してみて本気で驚きました。それとシャマシュに接触したときに、「シャマシュは正義、サバッシュは戦い」と言い残したんですけど、もしかしてほんとにシュメールではサバッシュという神が存在したんでしょうか。

 かと思うと冗談みたいな神も多くてですね、個人的には屁の神ブオウと魔神88がラブリーでした。魔神88の話を古いパソコン時代を知る人々にすると、軒並み「懐かしい」という言葉が返ってくるのはなんともやるせないですねえ。時代は動いている、そういうことなのでしょうか。例え名機と呼ばれた存在でも時が過ぎればそうやって打ち捨てられて行くだけなのかな、と。ちょっと思ったんですけどね、名機と呼ばれているものは……もちろん、私は生まれた時代がファミコン直前、そしてしばらくの間はゲームにはゲームウォッチでしか触れられない環境だったので、それより昔の話は語りようもないんですけどね……機能的にはともかく、いや機能的に表現したい事がらのすべては到底再現し得ないからこそ、限られた性能の中で「本物を作ろう」という気概のもとに作られた、そんなゲームが多いハードだったんじゃないかな、って思うんです。

 私は、確かに今だからこそ映像に優れ、また遊んでいて楽しいゲームが作られるんだろうな、と思ってもいますけど、ここんところずっと、新しいハードにおけるゲームでは少なくとも「ロールプレイング」という分野においてはそう思えたゲームは一つもありません。インタラクティブムービーならばいくらもあります、けどロールプレイングに関しては完全にゼロです。ああ、「BUSIN」はロールプレイングにとても近かったかな。それでもやっぱり少ないよね、一つだけじゃあね。

 それで、そういう現状って素人目なんですけどハードの性能は言ってみればある意味もう限界に達してて、あとはそれを使ってなにを表現するかの問題なのかな、と見えるんですよ。そして今の自称「ロールプレイング」メーカーは、「自分たちの」表現したいもの「だけ」に固執していて、なにが本当の面白さとなるのかを見失ってるんじゃないかな、とね。大好きだったシリーズは次々と変化していき、昔の味わいはほとんど残っていないものばかり。かつて彼らが作りたかったものというのは、今のあふれる表現力を以ってするとあんなものにしかならないのかな、と寂しくなったりもしますね。


●うお、この墓石はなんだ!?

 少し、このゲームについて希望を述べてみるならば。ぜひリメイク、多少の手直しを施して再度世に送り出して欲しいと切に願いますね。あまりに莫大すぎる情報量はやはりいくらかの箇所でほつれを見せてます。アルキリオンのガリエフの墓、コルギアの裏切り辺りはその最たるもので、「イベントナンバーがありません」とか出てきてしまいますものね。おおガリエフ、もしやこれは過去の堕落したお前への決別の印かい? あとコルギアよ、お前がとてもいい奴だなんてのはもう分かってるんだから裏切ったふりなんてつまんない冗談はやめなさい。

 それと、これは発売時期にもよるところがあると思うんですが、インターフェースでいくらか古さを感じるところもあります。まずそういうところに手を入れてもらって、あとはグラフィックをほんの少しきれいにして、それだけで今でも十二分に通用する内容です。グラフィックをポリゴンで超きれいにとかそんな余計なことは一切必要ありません。どうしても声優使いたいとか思うんなら、エフカ。彼女だけで十分でしょう。それ以上は完全に蛇足と思います。

 私はこの「パルチャップの海」が好きです。とてもきれいな海、そこに暮らす人々は確かに「生きて」います。感情を震わせ、喜び、嘆き、精一杯生きています。関係ない人々にまでこれほどの存在感を感じさせたゲームは、残念ながら今まで見たことないですね。これほどのロールプレイング、ブランドだけのインタラクティブムービーに負けてただ消え行くような状況で終わらせるのはあまりにも惜しすぎます


●オーナーのあの言葉、……一生、忘れない

 ある夜、私はとてもきれいな海に潜る夢を見ました。とても遠くまで見通せるほどの透明度、真っ青な空間に差し込む光の束。海底にはいろいろな宝石が沈んでいて、風景をより幻想的なものにしていました。たぶん、パルチャップの海(特に宝石系の採集地)もああいうところなんだろうなと、いえあれこそがそうなのだろうと本気で思っています。

 だから私はまたパルの海に遊びに行きます。先日のクリアの際、客船のオーナーと交わした約束もありますし、まだトロフ、ラムセスの旅路も味わっていません。特にトロフの旅路におけるとある人物との邂逅は、何としても見ておかなくては、と思っています。いずれにせよ、まだまだ終わったとは言えません。これで前半無料、後半2,000円なんてんなら、中古屋行って変なゲーム買うよりもよっぽどお徳だと思いますね。


●どういうことかは遊んでみれば分かります

 最後に、遊ぶにあたって私が気をつけていたこと、感じたことを。まず、ラハマーニの秘法は「アンバルの光」以外は極端な話要りません。ヘジラを使わないで旅すればヒッパロスの風は存在意義が消滅しますし、どうしてもヘジラを使うのであればこまめに交易品を倉庫船に預ければ済むことです。それにラピスの微笑み、これもスタミナを使うということを考えるとちょっと……という具合です。完璧な一日の予定設定とスタミナ計算を行えるのであれば使ったほうがいいんでしょうが、普通に遊ぶ分にはまず必要ないと思えます。それと、セーブに関しては例えば一日の頭など区切りを決めてそのときだけ聖ディスク書に記録し、普段はエフカ通信を使うとですね。特に町など、スタミナを消費する行動の直前にはエフカ通信を使っておけばまず間違いありません。

 あとアレですね、牢屋番とコックは可能な限り早く世界一を雇いたいものです。性能が町一番とはまるで違いますもの。コックはなんかフランス語だかドイツ語だか読めないとまともに名前が分かりませんが、あてずっぽでも結構行けます。「滝下り」を覚えるのがちょいと骨折れるんで時間かかると思いますけど、とにかく雇ってさえしまえば人材とスタミナの問題はかなり改善されると思います。これに加えてボージェント北のメセラ屋、ヒッパロスの薬屋の親父、メメル北のスーパーメセラ屋を毎日使えば一日が大層充実したものになるでしょう。

 もう一つ。戦闘はこちらが多少弱くてもグゼムを駆使したりすることでひっくり返せますが、陸戦はレベル差が30程度、海戦はレベル差が50程度を超えているようなら勝ち目なしと見て間違いありません。まあ、ヘケトラに限ってはこちらのレベルが400とか行かないとかなりヤバイでしょうけど。逆に言えば、これを目安にしておけば結構戦えてしまったりするものです。


●プートスの通知表 =私の場合=

 そうそう、私のクリア成績も書いておきます。どうなんだろうね、ファーストプレイとしては。ほどほどってとこかな? 成績には出てませんが、交易に関してはサブマスター止まりでした。50点なんてなかなか稼げんヨ。

 当たり前ですけど裏技やバグの類は一切使用していません、念のため。いきなりそんなことするのはゲームに対して失礼、そう思いますのでね。これからも無論使いません。

平均レベルアップ : 14レベル、98点
解放国数 : 35カ国、100点
平均収入 : 1億1132万4千ティラ、100点
戦闘数 : 825戦闘、78点
採集地発見数 : 29ヶ所、58点
幻の交易品発見数 : 3種類、60点
発見ビレット : 9枚、54点
カフタン成績 : 73点、73点
目的達成日数 : 20日、85点
総得点 : 706点



●いいゲームに会えたのは、皆様のお力あってのことですから……

 この場を以って、復刻委員会の方々、そしてグローディア社スタッフの方々には届かぬながらも深く深く御礼申し上げます。

 この話を聞いて、1人でもこのゲームに興味を持ってくれる人がいることを祈ります。



●おまけ

 難所、難所と繰り返されている噂の「テニオン大灯台」ですが、即死の罠にさえ気をつければ実はさほどのものではありません。レベルが250程度あれば戦闘は概ね楽勝できるはずですし(無論装備は整えておかないとなりませんが)、あとはビーゾー弾とザムザム、これだけ80個も持って行ってこまめに使用すれば、まずよほどのことがなければ抜けられるでしょう。

 まあだいたい分かると思いますけど、ちらちらとヒントを。なお、あまりに構造が面倒で嫌だったので、宝物の存在なんかはまるっきり気にしてません。ただ、抜けるだけなら以下のヒントで十分すぎるくらい事足りるはずです。

  • 1階
    左上の方でウルギブラを使う。

  • 9階
    壁からひょこっと出ている謎のフェンスが矢印代わり。

  • 8階
    ヘジラポイントさえ見つければ以上。

  • 7階
    左から2番目でウルギブラを使う。

  • 6階
    陸戦を繰り返せば以上。

  • 5階
    「死の門」を抜けてから本当の勝負。ビーゾー弾の所持数と根性。

  • 4階
    「死の門」に触れる前に敵艦隊を8つ潰す。あとはビーゾー弾の所持数と根性。

  • 3階
    中央辺りのスペース、連続している「死の門」の右側から回り込めるところにヘジラポイント。下のフロアへのヘジラポイントは地図右上の辺り。

  • 2階
    陸戦は数が少ないときだけ相手し、多いときはさよなら。毒の通路は被弾ごとに500ずつ削られていく。テニオンの周囲にある赤い舞台のようなものは即死ポイントなので要注意。テニオンのいた辺りでウルヘルカを使う。

  • 10階
    9階と考え方は同じ。「イコルの箱」が目的の品。

 情報では地下3階まであると聞いていますが、私は発見できませんでしたので語れません。まあ何にしろ、面倒くさいので二度訪れたい場所ではないですね。地図、戦闘に関しては楽なんですが、罠があまりにもいやらしい形で配されているためそういう意味では難所なのは間違いありません。地図なんかなくても大丈夫、必要なのは治療薬と怒りを抑える心、あと根気ですか。完全に構造を理解した状態で、戦闘もすべて楽勝できる状態で、解きおおすまでに一時間近くかかっていますから。ほんと泣きそうでした、テニオン倒した後にトラップ踏んでゲームオーバーなんて、もう……。