如己堂、長崎原爆の後…
長崎に行って心に残った如己堂と永井 隆博士の本、「この子を残して」
引用したので、よかったら是非読んでみて下さい…。
以下引用文の著作権は故永井 隆著者にあります。
「この子を残して」永井 隆著 中央出版社 650円
うとうとしていたら、いつの間にあそびから帰ってきたのか、カヤノが冷たいほほを私のほほにくっつけて、しばらくしてから、
「ああ、…………お父さんのにおい……、」
と言った。
この子を残して………この世をやがて去らなければならぬのか!
母のにおいを忘れたゆえ、せめて父のにおいなりとも、と恋しがり、私の眠りを見定めてこっそり近寄るおさな心のいじらしさ。 戦の火に母を奪われ、父の命はようやく取り止めたものの、それさえ間もなく失わねばならぬ運命をこの子は知っているのであろうか?
枯木すら倒るるまでは、その幹のうつろに小鳥をやどらせ、雨風をしのがせるという。重くなりゆく病の床に全くの廃人となり果てて寝たきりのわたしであっても、まだ息だけでも通っておれば、この幼子にとっては、依るべき大木のかげと頼まれているのであろう。けれども、私の身体がとうとうこの世から消えた日、この子は墓から帰ってきて、この部屋のどこに座り、誰に向かって、何を訴えるであろうか?
私の布団を押し入れから引きずり出し、まだ残っている父のにおいの中に顔をうずめ、まだ生え替わらぬ奥歯をかみしめ、泣きじゃくりながら、いつしか父と母と共に遊ぶ夢の我が家に帰りゆくであろうか?夕日のかっと射しこんで、ただっ広くなったその日のこの部屋のひっそりとした有様が目に見えるようだ。私のおらなくなった日を思えば、なかなか死にきれないという気にもなる。
せめて、この子がモンペつりのボタンをひとりではめることのできるようになるまで……なりとも……。
永井 隆著書シリーズ 中央出版社
「いとし子よ」
820円
「私たちは長崎にいた」
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「原子雲の下に生きて」
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「如己堂随筆」
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「亡びぬものを」
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「長崎の鐘」
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「ロザリオの鎖」
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「この子を残して」
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カセットテープ 「この子を残して」朗読:葉山 羊子
2700円
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