-Smart Scroll代替右手入力デバイス-

以前WACOMからSmart Scroll SS-200というトラックボールデバイスが販売されていました。これはペンタブレットと組み合わせて、ペイント系ソフトの画面移動や拡縮やショートカットを割り当て、ペン側ではツールを切替えずに描画に集中できるという効率的な環境が構築できる物でした。
ですがIntuos3からタブレット側にハードウェアキーが搭載されだしたので、Smart Scrollは販売を終了され公約されていたプラグインも開発打ち切りとなったようです。
ソフトウェアは有志の方々の尽力でその後も開発されていたようですが、Smart Scrollにはハードウェア的問題点も残されていました。トラックボールの移動検出が当時としても時代遅れの機械式エンコーダーで、しかもボールとの接触部がゴムでできているので寿命が短いという点です。
私の所有してた個体もゴムが割れ始め、修理を重ねても限界となってしまいました。そこで何とか自分で代替品を作れないかと検討してみたのですが、Windowsではマウス入力がデバイスレベルでは個別に認識されていてもAPIレベルでは単一に纏められてしまう為、スクロール専用に区別できない点が大きな壁でした。(IllustStudiosdだけはアプリ側でデバイス毎にスクロール用に割り当てが効くのですが…)

第1世代

2008/12
最初に思いついたのはジョイパッドの個別認識を利用するデバイスでした。ぶっちゃけアナログジョイパッドを接続して、AutoHotkeyという常駐型スクリプトエンジンを使って割り当ててやればスクロールデバイスは容易に実現できます。
概要
というわけで、ジョイパッドをお湯で柔らかくして右手用に潰したのが右の写真…と言うのは嘘ですが単にガワを作ってスイッチを配線しなおしたに過ぎません。
アナログパッド
2軸のアナログパッドを移植しています。
  • 上:画面拡大と左右回転
  • 下:画面移動XY
これを親指で操作します。
12ボタン部
内部には12個のオムロン製マイクロスイッチが配置されていてジョイパッド基板から延長結線してあります。
指の長さに合わせて個々の位置を調整しました。
Smart Scroll、試作機との比較
右からSmart Scroll、簡易試作機、第1世代機です。
簡易試作機はタクトスイッチとエレコムのジョイパッドをスチレンボードで囲っただけのものですが、これで実用化の目処がたちました。
第1世代機は実用ですのでもう少し奢ってマイクロスイッチとXBOXジョイパッドを使用して、外殻も粘土で手の形に合うオス型を用意してからガーゼとエポキシ接着剤で型取りして制作しました。

第2世代

2010/09
第1世代機は充分実用でき、相当な期間絵を描くのに使用しました。ですがジョイパッドだとトラックボールに比べて細かい制御がやりにくい(斜め移動とか)のと、センタリングしているパッドを親指で傾け続けるのは結構疲労が貯まり易いのが難点でした。
悩んでいた時にExclusive Scrollというソフトが発表されました。これはタイムシェアリングでマウスを個別認識してスクロール用に割り当てを可能にするものでした。
要はトラックボールが有ればSmart Scrollの代替が可能になったのです!ですが、マトモなトラックボールは結構なお値段がするのとボタン数が少ない…何故か家に転がっていたテンキー付きマウスに目が行き、分解し始めたのでしたw
概要
IOデータ製のテンキー付きマウスが押し込まれています。今回トラックボール化するので光学マウス部をひっくり返して使っています。
製作記録:トラックボールテスト
まずひっくり返した光学マウス部がトラックボールとして使用できるかLEGOを使用してテストしてみました。
基板が左右逆になるので検出チップの配線を一部逆に、ボール受けはPC用ケースファンから取り出したボールベアリングを使用。
結果、追従速度は高くないもののトラックボールとして動作しました。
外殻制作
Shadeにて部品配置と外殻デザインを行い、プリントアウト。厚紙から底面を切り出して内蔵部品を仮止めします。
その上から発泡スチロールを貼り付けて外殻を削り出し。表面にエポキシ接着剤でガーゼを貼って固めます。
テンキー部
マウス部の3ボタンとテンキーを新規基板に配置して元基板と結線。
テンキーはポリパテ複製した基部に、インクジェット印刷したデカールを透明プラ版に積層したものを接着し、角Rを削り落としてからコンパウンドで磨きだしました。
トラックボール部とホイール部
トラックボール部はマウス基板から余分な箇所を削除したものをプラ材のフレームに取り付けそこにベアリングを3点配置しました。
ホイールはレイアウト用に別基板に取り付け、ついでにミニチュアベアリングも入れときます。
組み込み
何層にも基板を重ねる様に組み立て。ボールはSmart Scrollから移植。
完成、元祖と比較
何とか完成。もう使用しなくなったSmart Scrollと記念撮影。
マウス部はExclusive Scroll、テンキー部はAutoHotkeyで制御しています。
現状、外装は薄汚れてきましたが問題なく使用できています。Exclusive Scrollの特性上Windowsの遅延(主としてHDDの反応遅れ)でロストすることも以前は多かったのですが、PCのスペックが上がったりWindows7 64bitで安定性が上がるにつれ発生率も下がり中々快調です。ですが、また悪い虫が…

第3世代の構想

Arduino Leonardoという興味深いボードを手に入れました。USBで接続してプログラムを送ると入出力や制御を簡単に行える上、LeonardoはPC側からはマウスやキーボードとして認識できる逸品です。
これに光学マウスチップを接続してXY移動を検出してPCにデータを転送する際に、任意のキーも同時に送ることができる事を確認済みです。つまりスペースキー同時押しマウスとか出来るわけです。
もう第3世代右手入力デバイスの構想自体は固まっているのですが、嫁の目が光っているため…あうぅぅ。