標準TTLだけ(!)でCPUをつくろう!(組立てキットです!)
(ホントは74HC、CMOSなんだけど…)
[第364回]

●昔話の着地点です

[第357回]で、MYCPU80回路図bQの、QEを、なぜ74HC74などで作ったりするのか、ここは素直に74HC161を2個使うべきではありませんか?というご質問と、それから、T、M、Wのクロックを74HC238で作っているのはムリがあるのではありませんか?(だからヒゲが出たりするのです)
ここはシフトレジスタを使うべきではありませんか?
というご質問をメールでいただいたことを書きました。

そのご質問に対して、これは答えるのがちょいと難しい、ということで、突然昔話を始めてしまいました。
さてその着地点なのですが。

そもそもTK80のコンパチボードを半値程度で出すというところから、私は業界デビューしたのです。
それはTK80のそっくりさんボードを出そうというのでもなければ、技術的にすぐれたもので競争を挑むというものでもなく、全く独自の回路によって、安価でありながら、そこそこの互換性ももつという選択からスタートしたのです。

当時TK80は電源がネックだったはずでした。なにしろ正攻法で、+5V、+12V、−5Vの3電源をもつマルチ電源ユニットを作ったら、そりゃあ価格は1万円を超えてしまうにきまっています。
そこを私は、ケースなし、基板にでっかいトランスをのっけてしまうという、乱暴な方法で、電源込み価格43000円を実現したのです。まあ、のっけから非常識でした。

つまりはそういうことなのです。
まことに申し訳ないのですが私の頭のなかには、余り常識的な回路は入っていないのですよね。
ですから、74HC161に74HC74を平気で継ぎ足したりするのです。

なんで、そんなことをするのか?
って、そりゃあ、もったいないからですよ。
たった、あと1ビットの追加なのに、4ビットの74HC161を使うなんて、そんなもったいないことは、私にはとてもできません。

クロックが遅れるじゃないか?
そりゃあ遅れます。
遅れたって構わないじゃありませんか。
ロジック回路をこんなにたくさん使ったら、これで遅れないっていうほうがおかしいです。
もう、どんどん、いやになるほど遅れます。

あの。でもですね。
ごくフツーのICを300個も使って、それで誤動作しないって、不思議だと思いませんでしょうかねぇ?
ちゃんと動いているのですよ。
それも、チューニングして、あっちを押さえ、こっちをしぼって、やっと動いているんじゃありません。
ごくフツーに組み立てて、ごくフツーに動いてしまっているのですよ。
ねぇ。不思議だとは思いませんでしょうか?

それは、はなから、遅れたっていい、遅れるに決まっている、というところから回路の設計をスタートしているからなのです。
遅れるに決まってます。
だから、74HC74を使って、QEが遅れたって、構わないのです。

でも、そういうことをするとヒゲが出たりするから…。
ヒゲなどツブしてしまえばいいのです。
この基板は電子科の卒業製作ではありません。教科書通りの回路にする必要は全くありませんし、これを教材にしてもらおうと思ってテキストなどを作ろうとしているわけではありません。

では、完全に趣味、独善的な自己満足かというと、そうでもありません。
こうやって、キットとして供給することも考慮にいれて設計しているのですから。

その場合、何が一番大切なのでしょうか。
私は、同じものを供給できる、ということだと思います。
個人の趣味でしたら、ジャンク屋から珍しいICを拾い集めてきて、それでたった一台しかないものを作る、という、それはそれで楽しいことかもしれません。
でも私が考えたのはそういうものではなくて、たとえ数は少なくても、複数の人に同じものを供給し、同じ結果を得ることができるようなものに仕上げること、そこに一番重点を置いているのです。

そのためには、容易に仕入れができるパーツを選ばなければなりません。
せっかく基板はできたけれど、かんじんのパーツが手に入らなくて、アメリカから取り寄せなくてはならないとか、ヤクザな業者と交渉して超レアものを仕入れなければならない、なんてことになったら、とても安価に供給するなどできません。
またギリギリの回路を設計してしまって、ロットをそろえなければ、あるいはメーカーや規格を指定しなければ誤動作してしまうというものになってしまってもこまります(そういうボードってけっこうあるんじゃありませんか。ほら、相性なんて言ったりして…)。

私はさんざ仕入れに苦しんできましたから、基本的にメーカー指定などなにも無しで発注します。入手できるものならなんでもいいです。たいてい、業者には、あんたとこで、ごく普通に流通しているものを送って。という依頼をします。
それで動く基板の設計をこころがけています。
そのこころは、それが一番安上がりだからです。

私がT、M、Wのクロック回路に、はなっから74HC238を使おうと考えたのも同じ理由からでした。
もう、回路を考えた段階で、ここはそれしかない、と決めてしまいました。
なぜって、そのほうがうんと安上がりだからですよ。

シフトレジスタは高いのです。
ローテイト回路は仕方が無いので、いやいや使ったのですけれど、ほかのICで代用ができるところなら、シフトレジスタを使おうとは思いません。
ごくありふれたゲートICでさえ、それを求めて新幹線に乗って東京まで行き、秋葉原の路地裏をはいかいするという経験までした私としては、フツーのIC以外は使う気になれないのです。

そういうことですので、まあ、ぶっちゃけていうと、ようするに、安上がりな回路にしたい、という、そういう理由から、お尋ねの回路が決まってしまったのです。
でも、いきなりそういう乱暴なことを書いてもなかなか納得してはもらえないと思いますから、それは今に始まったことではありません、創業当時からその路線なのです、ということを説明したくて、長々と昔話を続けたのでした。

でも、ちゃんとしっかり動きますでしょ?
そうそう、IC300個にしては、パスコンも極端に少ないですよね。0.1μFの積層セラミックですが、たったの8個です。
なぜ?
そりゃあ、もったいないからですよ。
でも、誤動作しないで動いていますでしょ。

あ。こういう設計がいい、と言っているのでは決してありません。
まあ、費用対効果みたいなものです。
どこまでのスペックをいくらで実現するのか、ということですね。

このボードを何かの大切な制御に使おうという目的はないでしょう(そりゃそうでしょう)。
また、劣悪な環境(たとえば工場内のクレーンや溶接機械がバチバチ動いているような)で使うということも想定していません。
ごく普通の環境で、そこそこ安定して動作するものを、できるだけ安価に作る、というコンセプトのひとつの結果としてこういう設計があるのだと、まあ、その程度にご理解いただければありがたいのです。
そんなところで、よろしいでしょうか?

あ、また、ちょっと、時間がなくなってしまいました。
この件はこれで終わりにさせていただいて、そのほかのいろいろについて、また次回にUPいたします。
2009.10.16upload

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