法律のくすりやさん
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■ 著作権戦争が始まる…のか?

1. アメリカでの「Google ブック検索著作権集団訴訟和解」

元となった資料 (2009/03/29 時点では有効)
Google ブック検索和解
通知書  (PDFファイル直リンクのため注意)
※ これを読まないと話が通じません。

 さて、これはアメリカの横暴なのか? と言われれば、NOとしかいえない。
 まず、ここを勘違いしないで欲しい。

 この和解のポイントは
 「アメリカ国内において出版された物」について
 「アメリカ国内での著作権管理ルール」を一つ作ったという事。
 そして、その管理団体として「Google」が選ばれた。
 
 というだけの話。
 
 「そんなの俺は聞いていない」という創作者がいるかもしれないが、アメリカとしては「創作者集団」と「流通集団」(※参照)という「(団体)法人格」を構成して、googleとの間の和解を行わせている。
 で、「いちいち全員と個別契約を結ぶ」のは実際には不可能。妥当策として、「創作者集団」「流通集団」を相手に和解すれば、「一般人ほとんどが認めた理論」として「全員に適用させちゃえ」 というのが、アメリカの今回の法理論。
 
 …多少、強引だとは思う。
 だけど、あれだけの広大な国土を誇る国であれば、この考え方も仕方がないと思う。
 実際、あの国で「全員を相手に個別許可を取れ」なんて言うのは、主張するほうが異常。
 「嫌なら、拒否して『創作者集団』から独立していい」って、個別創作者の離脱自由も一応保障しているし。

 確かに「創作者」の権利は大切だけど、「利用者側」からすれば利用手続を簡略化する法制度は有益だ。それに『著作物』というのは『利用者がいて』初めて意味がある存在だから、今回の話については、「強引だけど、ぎりぎり許される行為」として認めてもいいと思う。 


 ※ 日本語訳では これを「著者下位集団」と 「パブリッシャー下位集団」と呼んでいるので、「下位とは何事だ!!」と色々文句を言いたい人がいるかもしれない。
 だけど、これは、アメリカの「法律表現」の問題と、その和訳が「ヘタッピィ」なだけなので、一々、気にしないで欲しい。
 というか、「法律の語彙」と「日本の丁寧表現」を一緒に考えない。
 考えると話がこんがらがるので禁止。 


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2. じゃあ、何が問題なの?

 「他国からも自由に使える可能性」が残っている事。 問題はこれだけ…なんだけど。
 
 ネットの特質として、「どこからでもアクセス可能」「どこへでも発信可能」というのがある。
 今回のGoogle問題も、「アメリカ国内のネットサーバ」で「アメリカ人向け」であったとしても「他国のサーバ」から「他国人が自由にアクセスできる」可能性がある。
 
 この時、著作物によっては、「他国の国内法」では「利用不可能」であっても、「アメリカ国内からの直利用」という形で「実質的に利用できる」という事態が発生する。
 
 これが、他国の「国内の著作物保護」という部分に真っ向から対立してしまう。
 

 いくら「国内で」権利を守ろうと、「アメリカから」簡単に自由に使えるようになれば「国内で守る」意味が無くなる。

 これだけ。でも、これが一番重要。

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3. 禁止できないの? 

 物理的には現状「無理」
  
 物理的に言えば、アメリカのグーグルブックライブラリープロジェクト(以下GBLP)との回線遮断・アクセス遮断をすれば別だが、アメリカと同じように「自由の国」として「国家による恣意的情報規制は極力行わない」を認めている日本からすれば、このようなそのような法規制・実質規制が可能かといえば、「不可能」としかいえないだろう。

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3-2 じゃあ法規制でなら? 

 法規制も論理的に無理

 基本的に、人間は「世界中どこでも同じ権利」が保障されているわけじゃない。
 「各国による法・社会概念」の範囲内において「各国ごとに守られる」事になっている。
 
 これを『難しい・理解できない』という人は少ないだろう。
 
 簡単にいえば、「ウチの家庭内ルール」を「隣の家庭内ルール」として強制する事はできない、という事だ。
 双方が同意して「共通ルール」とした事以外は、「それぞれの家の中」は「それぞれの自治範囲」で決まる。。コレだけの話。
 これを無視して「ウチのルールが世界のルール」と言うのは傲慢以外の何者でもない。
 
 さて、じゃあ著作権はどうなのか?といえば、コレも同じ。

 ベルヌ条約でもその他各種著作権関連条約でも同じ事なのだが、
 ・「その国で正規手段によって公表された著作物」は「その国において」は「その国の著作権法に従う」事を国際間での基本ルールとしている。
 
 日本で発行された場合は、日本国内では日本ルールが
 アメリカで発行された場合は、アメリカ国内ではアメリカルールが
 中国で発行された場合は、中国国内では中国ルールが
 
 「それぞれ適用される」というのがきまり。至極簡単な論理。
 
 だからこそ、「アメリカ国内で正当に利用される」(予定の)GBLPを「日本が禁止させる」事は法的にできない。
 「日本からアメリカGBLPへのアクセスを禁止する」のも、自由主義の日本からすれば「法規制は無理」

 結局、「仕方がない」と割り切ってしまうしかない。


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4 で、何で「戦争」なの? 

 ここからが本題。
 
 問題の本質は、デジタルデータ化した表現(著作物)については、有体物に比べて、国境という垣根が極端に低すぎる。という現象がある事。
 
 「(有体)物」は実際に運搬しないと相手の手元に届かないけど、著作物は「データ」でしかないので「ネット経由で簡単に相手の手元に届く」

 ここで、 「ある国では正当利用」としてアップされたデータが「他の国では不当利用」であったとしても「止められない」という事が発生する。
 
 …ここまで来て『だからアメリカが横暴なんだ』というかも知れないが、実はこれはアメリカだけの話じゃない。
 
 日本で、今、「著作権(財産権)」切れとなった映画が1000円未満の値段で簡単に手に入るようになっている。
 ぶっちゃけ、雨に唄えばとかローマの休日とか。
 これが、安く提供されるのは「これらの財産権(利用権)」が「日本国内」では「保護期間を終了」してしまっているから。 「日本国内でマスターテープを持っている人は、日本国内であればどのように使っても構わない」という事になっているから。
 
 だから、安くDVDコピーして販売しても構わないし、更に言えば無料で上映したって構わない。
 日本国内であれば「ネットで上映」「ネットにアップ」したって構わない。
 
 …ここで見方を変えると
 
 コレ、アメリカからすれば「何で日本で勝手に上げているんだ、アメリカルールと違うじゃないか」という事になる。
 「アメリカ人でも勝手に見られる。アメリカ国内の権利が保護されない!!」という事になる。

 でも、アメリカは止めない。止める権利がない。「日本ルール」では正当だから。
 「アメリカから見る事」ができても「アメリカで上映されている」訳じゃないから。
 
 という事で、何度も書いているように「他国から見れば権利侵害」であっても「自国からすれば正当利用」という状況が発生した時、「簡単に他国からも利用できる」ために「他国の国内保護」が不十分になりかねないという事が発生する。
 
 これが国際間での「自国民の権利保護」に関する火種となりかねない。


 今、まだ「著作権」という話だけで済んでいるのだけど、今後「情報利用に関する権利(自由と保護)」について、もっと広く問題となっていく事だろう。
 
 肖像権・プライバシー権その他ありとあらゆる「情報利用に関する権利」が「ネットでは自由に情報を伝達できる」という事実によって変わっていく可能性が非常に高い。(利用する権利・利用されない権利共に)
 実際、すでに既存法理だけでは十分な対応がしきれなくなっている。

 この状況下では、「国際間における情報の伝達」という事にも、もっと気を配る必要が出てくるだろうし、そこから発生する「情報戦争」についても考えておく必要がある。
 
 また、これは、単なる「企業・国家」の話だけじゃない。
 実は、小さく見れば「隣人間」の話まで。ネットで情報伝達が簡単になってしまった結果、全部において起こりうる「問題」・情報「戦争」に最悪「本物の戦争」にまで発展しかねない問題だという事もきちんと理解しておくべきだろう。
 
 情報に対する「技術」があまりにも発展しすぎたために、情報に対する「法制度・社会概念」が追いつかない。

 これを意識して、ネットを利用する事・ネットに利用されない事が、ネットと関わりを持つ人は必要だ。

2009/03/29 16:30 初稿掲載

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