
Album Review
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fin |
Reissue |
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1.Roman d'amour |
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2.恋のためらい |
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3.彼女と彼 |
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4.Deux Ciels |
作詞 |
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| 5.オブジェの花 |
作詞 |
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作曲・編曲: |
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| 6.ある夏のマリアージュ |
作詞 |
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作曲・編曲: |
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| 7.Egoiste |
作詞: |
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8.Noel a Paris 〜パリのクリスマス〜 |
作曲: |
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| 9.唇のフィアンセ |
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| 10.Fin〜めぐり逢い〜 |
作詞 |
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| 11.Collage d'amour |
作曲: |
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ミッシェル・ルグラン・オーケストラ
vs かしぶち哲郎オーケストラ
このアルバムにはそんな対決構図が全編を通して色濃く感じられる、等と書くとちょっと堅苦しいかも
知れないが、このアルバムの一番の聴き所というか肝というか、そんなことを言葉にすると、上記の如
き仰々しさが似合うような気がする。まさに日仏アレンジ合戦が烈火の如く展開しているのが本作『fin』
なんだと思う。
つまり、「恋のためらい」VS「Deux
Ciels〜ふたつの空〜」、そして「唇のフィアンセ」VS「Fin〜めぐり逢
い〜」だ。この2回の合戦のいずれもかたやミシェル・ルグランアレンジ、かたや純国産アレンジという
構図が出来上がっている。もちろん総合プロデュースはかしぶち哲郎に違いはないのだが、仏録音時
に於いては殆ど口出しをせずにミシェル・ルグランにお任せだったという点を鑑みれば、この構図に無
理はない。まぁ、合戦と言っても、これほどまでに優雅で華麗な合戦は見たことも、聴いたこともない。
平安絵巻にだって登場していないはずだ。我々リスナーは実に貴重な経験をしている、という訳である。
オリジナル『fin』の制作時にかしぶち哲郎の頭に、おそらくは日本で、いや世界でミシェル・ルグランと
渡り合えるのは、このオレしかいない、という邪念が全くなかった訳ではないだろうが、気持の高揚感
はこれと紙一重だったと思う。「Deux
Ciels〜ふたつの空〜」や「唇のフィアンセ」のアレンジワークにあ
る意味鬼気迫るものを感じるのは、そのせいだろう。奇しくも、この両楽曲ともリズム・ナンバーとなった
のはドラマーかしぶち哲郎の面目躍如と言ったところか。
さらに今回、全曲リマスタリングされた為、オリジナルと比べリズム系楽器の躍動感といい、ストリング
スの粒立ちの良さといい、ベースのうねりといい、その体感出来る音圧の鋭さと言ったらない。またかし
ぶちヴォーカルも艶美を増したようで非常に生々しく聴こえる。
さてアルバムは恋愛映画『fin』の始まりに相応しく、インストナンバー「Roman
d’amour〜恋愛小説〜」
で静かに幕を開ける。嵐の前のなんとやら、だ。上記のような構図を意識しつつ、6年ぶりに再リリース
されたコンプリート盤『fin』を聴いていくことにしたい。
1.Roman d’amour 〜恋愛小説〜【作曲:かしぶち哲郎】(Instrumental)
アルバムのオープニングは、かしぶちインスト楽曲となった。映画やテレビでのサウンドトラックを手掛け
ているだけあって、この導入部は実にさり気ない。何かを予感させる、一体何が始まろうというのか。
2.恋のためらい【作詞:芹口希理子/作曲:かしぶち哲郎】
さて、本アルバム肝の1発目だ。本作『fin』には2曲でアレンジャーとしてミシェル・ルグランが関わって
いるが、本楽曲はその1曲。冒頭、ミシェル・ルグラン・オーケストラのエスプリの利いた優雅な演奏を
バックに、ルグラン自身による軽やかなピアノ・プレーにまずは耳を奪われてしまう。譜面に記載されて
いる音符から音符へまるで滑るかのように縦横無尽に動き廻るそのタッチ感覚は、非常に軽快で気持
いい。ところで、なぜかしぶち哲郎とミシェル・ルグランなのかということであるが、ミシェル・ルグランと
いえば映画音楽ということになるが、ジャズにも精通している。というか「ルグラン・ジャズ」という言葉が
あるように、その造詣の深さは今さらながらなにをかいわんやなのであるが、元々はパリ・コンセルヴァ
トアールでポピュラー音楽の作曲・編曲を学んでいたのである。つまり、音楽的には何でも顔を突っ込
んでいたという事が出来る訳だ。この点がかしぶち哲郎の最大の繋がりではないのだろうか。クラウス・
オガーマンとはまた違ったストリングス・サウンドを耳にすると、華麗という言葉はこの楽曲の為にあっ
たかのように思ってしまう。ルグラン・サウンドと完全に同化しているかしぶちヴォイスや芹口希理子の
コーラスも聴き逃せない。
3.彼女と彼【作曲:かしぶち哲郎】(Instrumental)
オープニングもそうだったが、心の動きや気持の高まりをサウンドとして描写する場面というのは、やは
り映画音楽等で監督から数々の制約をつけられ、正に極限状態まで追い込まれた経験がないと簡単
には出来ないと素人ながら思うのである。例えば、「悲しいけれど、楽しい気持」をサウンドで1分以内
で表現しろ、と言われたらどうするか。そんな矛盾したオーダーが当然のように繰り返される現場をこな
した者しかわかり得ない境地。その境地があって生まれたのがこの曲なんだろう。
次曲「Deux Ciels〜ふたつの空〜」への準備体操を兼ねた金子飛鳥のストリングス・アレンジが冴えま
くっている。
4.「Deux Ciels〜ふたつの空〜」【作詞:芹口貴理子/作曲:かしぶち哲郎】
穏やかだった前曲の余韻を楽しんでいると、突如、思いの丈を弦に叩きつけるかのような古川昌義の
スパニッシュ・ギターとカスタネットのいきなり襲われる。何だかそんな感じで始まるこの楽曲のテンシ
ョンの高さは、まさにかしぶちフラメンコと言っても良いだろう。
5.オブジェの花【作詞:芹口貴理子/作曲:かしぶち哲郎】
導入部に羽毛田丈文のヴォイス系白玉ストリングスが聴かれ、楽曲自体に奥行きを感じさせる非常に
印象的な楽曲。こうした音色には腰砕けになる割合が高いんじゃないだろうか。かしぶち楽曲には「S.ex」
という腰砕け系の代表曲があるが、これはその筋にあたるものだろう。実にイヤらしい雰囲気がムンム
ンとしている。ピアノも羽毛田丈文。アコーディオンに小林靖宏、コーラスに芹口貴理子。
6.ある夏のマリアージュ【作詞:芹口貴理子/作曲:かしぶち哲郎】
『fin』の楽しみのひとつとして、渡辺等のベース・プレーを忘れてはならないだろう。元Shi-shonen、リ
アル・フィッシュのベーシストとして培ってきたその何とも言えないグルーブ感が好きでたまらない。こ
のうねりはブランドXのパーシー・ジョーンズやJAPANのミック・カーン等とも一線を画する独特なもの
だと思う。正直言って、この楽曲に於いては渡辺等のベース・プレーしか耳に入ってこないのである。
それほど病みつきになっていることを告白してしまおうと思う。因みにこの楽曲ではマンドリンもプレー
している。渡辺等のマルティ・プレーヤーぶりも堪能出来る逸品。
7.Egoiste【作詞・作曲:かしぶち哲郎】
『fin』と言うと、どうしても華麗なストリングス・サウンドがイメージとして浮かんでしまうのだが、ブラス
系のサウンドは随所に聴くことが出来る。羽毛田丈文アレンジによるホーン・セクションも聴き所のひ
とつだ。この曲を始め、「Deux
Ciels〜ふたつの空〜」や「唇のフィアンセ」等で聴かれるホーン・セク
ションは、ルグラン・アレンジのホール・セクションと比べて、むしろ繊細度で勝っているような気がする。
8.Noel a Paris〜パリのクリスマス〜【作曲:かしぶち哲郎】(Instrumental)
「スプーン一杯のクリスマス」という楽曲もあったが、数少ないかしぶち楽曲によるクリスマス・ソングと
言って良いだろう・スキャット付きのインストというのがミソか。オリジナル盤の『fin』がリリースされた93
年当時というのは、ハウス・サウンドと呼ばれる音楽が細分化し、かやたビートにかたや環境音楽もの
にとその方向が確実に分岐していったような気がする。なかでも「スネア」の時代から「キック」の時代へ
と移行していった事は従来の音楽との一番の差違だったのではないだろうか。本楽曲はそのあたりの
動向を敏感にすくいあげていると思う。つまり、かしぶち楽曲に於いてかつてこれほどまでに「キック」が
音楽を語ったことがあっただろうか?ということだ。スキャットを入れるところあたりは実にかしぶち楽曲
らしさが覗いていると言える。サウンド的にパリっぽさを感じるのは収録曲中随一ではないか。
9.唇のフィアンセ【作詞:かしぶち鉄路・芹口貴理子/作曲:かしぶち哲郎】
今回追加収録曲としてインサート・カットされた楽曲。再リリースに伴い晴れて我々の耳に届いたことに
なる。かしぶちハニー・ヴォイスと古川昌義のスイート・ギター、それにラテン・パーカッションに誘われる
導入部。曲の骨格はプログラミングされたリズム・トラックと渡辺等のうねりベースが決定づけているが、
このグルーブこそがリスナーにヘビー・リピートを要求させる肝となっているのだろう。またブラス系サウ
ンドは楽曲のアクセントとなっていて、グルーブに拍車をかけている格好だ。さらに、かしぶちヴォイスに
絡むように入ってくる部分と、エンディング付近に絡んでくるミシェル・ルグランばりの羽毛田丈文のピア
ノ・プレーは、繊細かつ軽快だ。実に気持がいい。本楽曲がミシェル・ルグラン・アレンジによる次曲「F
in〜めぐり逢い〜」と対決構図にある理由はここにある。フェード・アウトしていくエンディング以降にインス
ト・ナンバーの「彼女と説」が再度挿入されているが、このインスト曲、本アルバムでは場面転換用とい
うかなかなか重宝な曲なんだということを再確認した次第。それからトウキョウローズの上田美由紀の
コーラスは、芹口貴理子のそれと酷似していてビックリした。
10.Fin〜めぐり逢い〜【作詞:作曲:かしぶち哲郎】
副題を「(雲一つない夜空に)宝石をまき散らす時のテーマ」とでもつけられそうなくらい流麗なストリン
グスが非常に印象的だ。恋愛映画『fin』のテーマ曲はミシェル・ルグランによって奏でられた。すべての
想いはこの弦の微妙なニュアンスが表していると言わんばかりの華麗で、抑揚のあるオーケストレーシ
ョンは、まさにエスプリの神髄を見た、いや聴いた感がある。本編はおそらくここまでなんだろう。
11.Collage d’amour【作曲:かしぶち哲郎】
恋愛映画『fin』のエンド・ロールがバックにでもかかりそうな楽曲だ。数々の思い出のシーンが流れてい
くような音触感がある。オリジナル盤『fin』がリリースされた93年当時の流行を取り入れたちおうことで
もないだろうが、いわゆる『fin』のリミックスと言えるだろう。サウンド・ソースはデータとして扱われ、エ
ディターが作業を進めるという形態である。ここには演奏者の介在はない。
(樫の会 KRAFT.WARTZ)
(初稿 1999.4.5)
(文中敬称略)
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