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葡萄畑に意義あり!

1977年ムーンライダーズは2枚のアルバムを発表する。
すなわち、
『ムーンライダーズ』(
1977.2.25
『イスタンブール・マンボ』(
1977.10.25
である。

かつてビーチ・ボーイズがデビュー以来の2年間で8枚ものアルバムを発表した異常なペースを思う時、1年間に2枚というのは特筆すべきことでもないが、77年に何故2枚なのか?ということの意味を考えると、これは、発表ペース云々よりも、実はこの年に2枚のアルバムを発表せざるを得なかったムーンライダーズの切羽詰まった「お家事情」にこそ特筆すべき何かがあるような気がしてならない。ではその「お家事情」とは何だったのだろか。

一つには昨年のロフト・プラスワンで慶一氏とサエキ氏とでショッキングに交わされた「解体説」が考えられる。サエキ氏が唱えるこの説は、ムーンライダーズは77年のデビュー当時、既に「解体」しており、『イスタンブール・マンボ』こそが事実上の1stアルバムであるとするもの。「解体」してたから出直そうや、という誠に解りやすい理由だ。なるほど、筆者はしっかりとこの説に唸った。

ということは白井良明氏を勘定に入れて何周年という言い方はそもそも間違いで、97年現在、ムーンライダーズというバンドは結成20周年を迎えたと言える訳だ。この説は10周年を86年にやったから96年が20周年という「通説」に、ひょっとしたら風穴をあける有力説かも知れない。それにしてもライダーズはデビュー・アルバムを2枚持つバンドになるのだろうか。

切羽詰まった「お家事情 」のもう一つは「ライバル説 」である。慶一氏が「私たちの20年の歴史の中でたった一度だけ先を越されたと思い知ったアルバム、それがこれだ」と告白しているように、葡萄畑というバンドは、観測史上最大瞬間風速でもってムーンライダーズを襲ったものと考えられる。「たった一度だけ」という言葉に、あくまでも一過性であったことを必死に匂わせるが、『スロー・モーション』という作品に対する「焦り」が77年に2枚の作品を生み出す誘因になったことは間違いないと思う。

この「焦り」はサウンドにも現れている。これまで事実上のデビュー・アルバムだと思っていたいわゆるムーンライダーズ・レッド(『ムーンライダーズ』)のオープニングを飾る「紅いの翼」。この翼、華麗なテイク・オフを魅せたかと思っていたらエンディングで結局墜落してしまう。デビュー・アルバム&オープニングにしては縁起でもないなぁと思っていたのだけれども、この有り様は「焦り」から操縦を誤った「紅いの翼」、つまりはムーンライダーズそのものを皮肉ったものと考えることは出来ないだろうか。しかも墜落していく「紅いの翼」の識別ナンバーが「NO
.2」。「NO.1」でなく「NO.2」。

「NO
.1」とは、つまり・・・。

葡萄畑の『スロー・モーション』を聴いて最初に浮かんだのが「無節操」という言葉だった。10CCやロキシー・ミュージックがあったかと思えばハワイアンが突如として聴こえてきたり。東京ネイティブなサウンド感覚はライダーズとも共鳴し合っている気がするけれども、その歌詞やサウンド面でのパロディー・センスは数年早熟だったんじゃないかと思わせる。

『スロー・モーション』が発表された76年頃と言えば、ドイツのクラフトワーク、スウェーデンのアバ、イタリアのP・F・Mなどこれまでのミュージック・シーンの常連国だった欧米以外からのアーティストが群雄割拠を始めていた時期でもあり、日本でもミカ・バンドがそんな動きとリンクし始めていた頃で、「外」へ目が注がれていた時代でもあった。そんな中にあって
葡萄畑と言うバンドは、そんな動きとは寧ろ逆行していた感さえある。

例えば「3つ数えろ」なんて、もうロキシー・ミュージックそのもの。思わず笑ってしまうくらいだった。しかしたまにミカ・バンドも顔を覗かせたりするところなど、聴きようによっては当時イギリス指向を見せていた日本のバンドまでもパロディの射程距離内にいたと取るのは少し強引過ぎるか。このひねくれ方、何れにしてもバンドの真骨頂なのだろう。また「今週赤丸急上昇」のように日本のバンドのアメリカ指向を皮肉る露骨な歌詞や、エルトン・ジョンの「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」とポール・マッカートニーの「マイ・ラブ」を足して2で割ったようなサウンドの「ロディオに遅れたカウボーイ」など、やることが「露骨」。

こうした例はライダーズにもあった。『
MODERN MUSIC 』だ。このサウンドが、あのディーボの『Duty Now For The Future(生存学未来編 )』とうりふたつ。偶然の一致かも知れないが、奇しくも両作品とも79年の発表。どちらも時代に尖っていたバンドだけにリアル・タイムでの一致は後追いの葡萄畑と違って、ある意味で「神業」と言えるのかも知れない。ただ、いずれにしてもサウンドをパクってくるというのは一歩間違うと単なるコミック・バンドに成りかねない。葡萄畑はこの辺りの駆け引きがアルバム全体を通じて実に上手いと思う。

で、面白いというか、暗号めいてるのが7曲目の「お嬢さん、お手やわらかに」という曲。その後ライダーズが「お洒落してるネお嬢さん」という曲を発表するが、この「お嬢さん」の部分にお互いのバンド名を入れてみると、当時の勢力関係が見てとれる。つまり「ムーンライダーズさん、お手やわらかに」とする葡萄畑に対し、「お洒落してるネ葡萄畑さん」とエールを送るムーンライダーズ。ってな具合。これは少し考えすぎか。

ムーンライダーズにとって葡萄畑は好敵手だったのか。葡萄畑にとってムーンライダーズはライバル以前だったのか。些末な拘りはこの際どうでも良いことだろう。76年以降の彼らを知らないけれども、このままお互いにアルバムを発表し続けていたらひょっとして、現在の音楽シーンは全く違った展開を見せていたのかも知れない。そんなことを想いながら再び『スロー・モーション』聴こうと思う。それにしても今年あたり、葡萄畑とムーンライダーズとがスクラム組んでアルバムでも作ってくれないかなぁ。

えっ?タイトル?。
そりゃぁ、もう決まってますよ。

『葡萄畑のムーンライダーズ』ってね。



※Text by KRAFT.WARTZ (樫の会)
※1997.03.02にniftyserve(現@nifty)内のFBEAT ムーンライダーズ会議室への発言
  内容を一部改定。
※2004.07にアップ。 
※文中敬称略
   

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