均整の美 −藤内式土器の世界−
7月1日より9月28日まで、藤内遺跡出土品展の第2期として「均整の美−藤内式土器の世界−」と題し、 藤内遺跡の“藤内式土器”について展示を行います。またこれにあわせ、このホームページでは展示される 土器について紹介いたします。 考古学の世界では、土器の文様や形からなされた分類に、発見された遺跡の名前を頭につけて○○式 という土器の“型式”を設定します。これを年代順にならべ、時期区分・時代区分したものを“土器編年” と呼びます。私達が、時代や文化の広がりを知る、大切な指標となるものです。 さて、藤内式土器というのは、藤内遺跡の出土品を“標式”として設定された型式で、中部高地から関東 ・北陸地方まで広く分布しており、次の3つの段階に分けられています。 藤内T古式 藤内T式 藤内U式 それぞれの型式については、井戸尻考古館の展示をご覧ください。 ・・・そこで、です。 藤内式についてや、それぞれの土器の説明は展示の解説をご覧いただくとして、こちらではもっとザックリと リラックスした解説をしてみたいと思います。写真は小さいのですが、コーヒーやビール、日本酒やワインでも 飲みながら(なぜアルコールばかり?)お楽しみください。そしてぜひ、実物を井戸尻考古館でご覧下さい。 |
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乳房状口縁深鉢 藤内T古式 高さ51cm
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単環深鉢 藤内T古式 高さ30cm
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参 考 みづち文深鉢 (御所平北遺跡 出土) 藤内T古式 高さ30cm 藤内T古式を代表する図像が“みづち文”。 なにか正体の知れない不思議な生物が描かれ ている。 そしてこの生物がいるのは、土器を作るとき にできた粘土の輪積みの痕跡を残し、指先を 押しあて付けた、べこべこした器の面。 それはあたかも、ゆらゆらした水界のよう。 山椒魚や龍のような、想像的な水棲動物だと 考えられるから、古語で“みづち”と呼んで いるんだ。この段階を代表する図像だね。 その意味するところは、また今度。(えっ?) 今回の藤内遺跡の出土品の中にはないので、 参考資料として他の遺跡から出土したものを 並べておきます。 |
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縦帯区画文筒形土器 (町指定有形文化財) 藤内T式 高さ48.0cm 藤内T式の最大の特徴は、縦帯区画文という 文様だな。これは器面を縦方向に区切った中 を、縦や斜めの線または縄文で埋めたもので、 この文様のルーツは北陸だとにらんでいるよ。 藤内T古式のべこべこした地紋様のことを指 頭圧痕(しとうあっこん)というのだけど、 T式にはほとんど残らず、この縦帯区画文が 主流になる。ずいぶん完成された印象だよね。 この土器については前にも書いているので、 藤内遺跡の土器 あまり長くは書かないけど、あえて言おう。 この種の土器はこれまでに各地でいくつか発 見されてる。だけどここまでの作品には今ま で会ったことがない。そして多分これからも。 |
箍状口縁深鉢 藤内T式 高さ36cm すらりとした器形に精緻な縦帯区画。美しい 土器だよね。だがしかし!その面をざっくり と切り取ったかのような、大胆な空白が。 反対の面にも三本指の腕が、なが〜く伸びて いるけど、こちらの空白も実は腕に由来する 文様らしい。 空白は腕の空洞をあらわし、有名な神像筒形 土器のそれに通じる。腕の空洞?その秘密は 考古館展示室で学芸員にたずねてくれ(笑)。 それにしてもなんという見事な構成力だろう。 箍状口縁というのは口の部分が、桶のタガの ようになっているから。これが後になると、 唐傘のように張り出してくるんだ。 そうそう、反対面の三本指は蛙の手を表すよ。 この段階の図像の主役は蛙なんだけど・・・。 この話は、また今度。(って、いつだよ!?) 最後に一言、いい? 僕はここに勤めるずっと前から、この土器が 大好きでした!(何を告白してんだか) 最初に実物を見たときは、本当に嬉しかった なぁ! |
縦帯区画文土器 藤内T式 高さ35cm 土器にもいろいろな性格があって、それぞれ に世界が表されている。実はこの区画文深鉢、 前の箍状口縁深鉢とおおよそ同じ世界を体現 していると言っていいかもしれない。 ひねったように斜め上に向かって開く突起、 箍にあたる部分は少し下がってその上に空白 が広がるけど、その下の胴部は縦帯区画文を 地紋としている。そしてそこにはやはり腕に 由来する文様が貼り付けられている。 前の土器のえもいわれぬ緊張感からすると、 こう言っちゃなんだけど、ちょっと“ホッ” とするよね。 |
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縦帯区画文土器 藤内T式 高さ32cm 縦帯区画文は地紋としていろんな形の土器に 用いられるよ。この土器は器形とマッチした ような“ゆるゆる”として掘りの浅い区画文 で飾られているよね。 口縁は四箇所が少し高くなる形で、その部分 は両側からせりあがるようになっている。僕 達はこれを双耳状口縁と言うよ。 この形の口縁は前段階のT古式から見られる んだけど、そのころはべこべこの指頭圧痕が その下にあるんだ。口縁の形はそのままに、 地紋だけは新しいものを取り入れたんだね。 こんなの↓(藤内T古式) |
台付鉢 藤内T式 高さ18cm 縦帯区画文がいろんなところに採用されると いえば、こんな土器もありました。台がつい た小型の鉢です。口の下のくびれた部分には ご丁寧にも箍のなごりまであるね。 ここにはありませんが、有孔鍔付土器という 土器にもときどき見ることができるよ。 それにしてもこういう土器って、何のために 使うんだろうね? 台があるってことは“直接地面に置かない” ということだから、貴重なもの、あるいは神 に捧げるようなもの、などが入れられるもの。 遺跡から発見される数はあまり多くないし、 やはり特別なものなのかなぁ。 |
双眼深鉢 藤内U式 復元高43cm 土器の縁に載せられた、二つの大きな輪っか。 この土器には外側に向くものと、奥に立って 内を向くものがあるよ。 この輪っかは双つの眼を表している。それで 双眼(そうがん)と呼ぶんだ。 この眼は以前からあるのだけど、藤内U式の 土器には目立って多くなるね。 奥からこちらを見ている眼をみてほしい。 右眼(向かって左)は暗く閉じ、左眼(向か って右)は明るく開いている。実はこれが、 このような造形を作るときの約束なんだ。 双眼の秘密はここを見てね |
双眼深鉢 藤内U式 高さ33cm さてそんな双眼の造形だけど、この土器の様 に片方が高くなっていることも多い。口縁が ぐぐっと巻き込んでくるようだね。 この眼、その背景には日月の存在があると思 われるんだ。そうしてみるとこれは、天体の 運航にも関係するかもしれない。 あれほどこだわりのあった縦帯区画文は、藤 内U式になるとほとんどなくなってしまうよ。 おまけにT古式のみづち文は完全に姿を消す。 この時期の図像の主役は蛇。そして女神の顔 が付いた土器(人面深鉢)。 その話は、また今度。(またかよっ!!) |
人面深鉢 破片 藤内U式〜 残高27.5cm この頃から土器の縁に人面を戴くものが現れ るよ。この破片は胴が失われてはっきり判ら ないけど、人面や文様の特徴から、藤内U式 から井戸尻T式にかけての作だと思う。 三角形の山形を“髪の毛”だという人もいる けど、それは間違い。どうやら母体、子宮や 女陰を表すらしい。この顔は産まれてくる赤 ん坊の顔なんだ。 人面土器は、女神をかたどった土器。その顔 がなぜ赤ん坊なんだろうか??? その話は・・(オイ!コラ!)ではないけど、 ここではスペ−スが足りない。ここは本当に、 ぜひ展示室で話を聞いてほしいな。 |
尖峰形口縁深鉢 藤内U式 高さ20cm 口縁の四方が尖った山形に盛り上げる土器。 器。もっと大きなものが一般的でこれは小型。 山形の下におむすび型の区画があるのが特徴 で、この土器のようにそこは縦線で埋められ、 時にTやJ字の隆線が付くことも。 この土器は前の双眼深鉢にみるような口縁の 双眼に近い表現の片眼だけがあるよ。 いずれにしても土器の上で“四つの方角”を 意識した作りになっていて、これが次の時代 「井戸尻式」に引き継がれていくんだ。 それについては10月からの第3期展示 「造形の爛熟−井戸尻式土器の様相−」 をどうぞお楽しみに! |