魚料理には白、肉には赤。飲む前にグラスをくるくる回し、ちょっと難しい顔で香りや味を
みる。そして気の利いたコメントをひとこと−−ワインには、そんな面倒なルールがつきもの
と思っている人もいるだろう。でも、好きなワインを好きなように楽しむのが、初めの一歩。
いま街を歩くと、選ぶのに困るほどたくさんのワインと出会う。数百円から数十万円、軽やかな
もの、重々しいもの−−。楽しみ方もワインの数ほどある。東海地方でも、ワインやワインの本
が随分増え、ファンも確実に広がっている。(魚住ゆかり)
地方からも「伝道師」育つ
日本ソムリエ協会(JSA)が昨年から始めたワインアドバイザー(酒類販売や調理などの
従事者の資格)の全国大会に、二年連続で三重県勢が優勝した。ともに「津ワイン愛好会」の
メンバー。会員のほとんどがソムリエ(飲食・サービス業従事者の資格)やワインアドバイザ
ーの資格を持つ。
ある夜、この例会=写真=をのぞいた。会場は、顧問のシニアソムリエ松田浩一さん(51)
のレストラン「つ・パーダーボルン」(津市一身田平野)。会の事務局も兼ねている。
赤ワイン二種類の年代と生産地、ブドウの品種を当てるブラインドテストが始まった。
においをかぐ。白い紙の上でグラスを傾け色を見る。口に含む。舌全体で味わう。唇の間から
空気を入れ、味の変化を探る。
会長の細川隆さん(49)に励まされ、私も見よう見まねで挑戦。でも、わかったのは「二番
の方が古い」「二番の方が好き」ということだけだった。メンバー十二人のうち、正解は一番が
三人、二番が二人。会長はどちらも正解だった。
タンシチューを食べながら、ブルゴーニュ地方の白と赤、ボルドー地方で1975年に作られた
第二級の赤、チリの白を味わい、コメントを練る。最後にリキュールを飲むのは様々な香りを知り
、表現力を豊かにするためだ。
ワインのプロを自負するメンバーも、もとはみんな初心者だった。十八年前、この店に客として
訪れた細川さんが、「ワインを勉強したいですね」と松田さんに話しかけた。東京や欧米で手に入
れたドイツワインを飲むうち、仲間が増えて82年、会ができた。
「正当な値段でワインを買えるようになりたい」と、勉強を始めるうちに気がついた。モンラッ
シェ、ムートン、マルゴー・・・・といった名ワインを、知らずに飲んでいたことを。世界最高と
うたわれる「ロマネ・コンティ」は長い間寝かせるのが普通なのに、二年後に飲むという「暴挙」
を冒したことも、今は笑い話だ。
会がJSAの認定試験を目指すようになったのは85年ごろ。会員は、自分のレストランや酒店
で「伝道師」役を務めるようになった。
「地方でも、ここまでレベルの高い人が育つのだという、いい目標になりつつある」と、相磯正芳
JSA東海支部長もたたえている。
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