うつわに課された役割 −様々な形と大きさ−
1月6日より3月29日まで、藤内遺跡出土品展の第4期として「うつわに課された役割−様々な形と大きさ−」 と題し、土器の機能や役割に迫る企画展示を開催しました。 第2期の「均整の美−藤内式土器の世界−」、第3期の「造形の爛熟−井戸尻式土器の様相−」とともに、この ホームページで紹介いたします。 縄文土器、とりわけ井戸尻文化の土器の造形は、その見事さから多くの人々の関心を集めてきました。そこには 道具としての機能をこえた“役割”というものが課されていたことが想像されます。“うつわの役割”とはいったい どのようなものなのでしょう? かたちによる使いわけ(機能・用途) のほかに 同じ形や文様で大きさが違う とか。 つまり同じ用途(たとえば煮るとか)でも形や大きさに違いがあると、それが「日常使うもの」と「何か特別な時に使われるもの」 の差かもしれない。それがその土器の役割を示しているといえるかも、ってことだね。 そんなわけで今回は、 「さまざまな種類」 「うつわの大小」 「煮炊きをする土器の、いろいろな形」 というあたりにスポットを当てていくらしい。・・・らしい、というのは、私が展示担当ではないからさ。 というわけで第4期なのに第3室(やっぱりややこしい)。 これまで同様、HP会場ではリラックスした解説をいたします。どうぞお楽しみください。 土器にもいろんな奴がいるんだなぁ(フムフム) こんな飾りのついた土器、何に使うんだろう? そんな気分でご覧いただきたいと思います。 この部屋は企画内容の事情から、ほかの部屋にある土器がいくつか再登場します。 だから少しは解説も、違った視点からにかえておくことにします(なるべく)。 なおこれは、展示を手掛けている担当学芸員Sとは違う人物が、勝手な思いをつづっているものです。 彼に責任はありません。展示内容とも関係があったりなかったり。くれぐれも誤解なきよう(笑)。 |
---|
|
||
双耳状山形口縁深鉢(煮る) 藤内T古式 高さ31cm 口縁の四箇所が少し高くなって両側からせり あがる、双耳状口縁の深鉢。そのうち一箇所に 環が付けられている。これは何かの象徴かな。 印象的だよね。 器の形はこのタイプの典型的な姿。バランスも とれていて、なかなかいい佇まいだ。
|
浅 鉢(捏ねる、盛り付ける) 藤内T式 高さ17cm 口径42cm これまでも幾度か書いてきたけど、縄文人は けして左右を均等にそろえたりはしない。そこ が魅力でもあるのだが・・・これだ。ここまで やったか。 波打った口縁っていうのは浅鉢には珍しい造形 だけど、それが半周しかない!残り半周は普通 の平らな縁になっている。で、その下の隆線が 波状の下はまっすぐなのに、平らな口縁の下は 逆に波打っている。 もし発掘でどちらか半分しか出土しなかったら、 ぜったい全体像を間違って復元しちゃう、コレ。 こんな風だから、この浅鉢には決まった“向き” があるはず。どちら向きに置くかで意味が変わ る、とかね。 |
有孔鍔付壺(酒を醸す) 藤内T式 高さ12cm 両手にコロリとおさまるくらいの、かわいら しい有孔鍔付土器。小壺といってもいいかな。 精製されたきめの細かい粘土で造られて、丁寧 に磨きあげられている。小さいからといって、 けして手は抜いていない。 なにより最大の特徴は赤と黒の顔料で色が付け られていること。漆だと思われるけど、その痕 跡が所どころ、特に内側にはよく残っているね。 正面からくきっと折れて右に伸びるもの、蛇の ような、あるいは腕のようなものだけど、よく わからないな。 酒を醸す容器だと考えられているけど、これに ついては担当の副島学芸員にぜひ聞いてみてほ しい。 |
器 台(器の台) 中期 高さ10cm 上面径22cm これはまた変わった形の土器だ。その名も器台。 何に使ったかって?だから、器台だってば(笑)。 お供え物をのせて神前に供える、三方みたいな ものだよ。粘土を平らな盤状にして、そこに脚が 付けられている。脚には円いすかし窓が開けられ ているね。 「土器づくりの時の台」だと考える研究者もいる けど、出土する数や大きさなどから、それは考え にくいかな。そう、あまり多くないんだ。三方が そうであるように、特別な相手、特別なものをの せる時に使うと考えるのがいいかな。直接地面に 置いてはいけないから、台の上にのせるんだ。そ れはもしかしたら上の浅鉢や有孔鍔付土器のよう なものだったかもしれないね。 個人的には二つのすかし窓が眼のように見えて、 ちょっととぼけたキャラを想像するけど、そこに 意味は全くないwww。 |
蒸器形深鉢(蒸す、かも?) 井戸尻T式 高さ37cm 蒸器形深鉢のひとつ。上下ともにふっくらと 丸みを帯びて、柔らかい印象の土器だね。 最大の特徴はそのキュッとくびれた腰にある。 第2室で紹介しているから、ここでは詳しくは 書かないけど、蒸し器として使えるのではない かとも考えられる。 人類は土器を使うことによってさまざまなもの を煮て食べることができるようになった。それ によって急速に進化したんだ。まさに画期的な 発明なんだけど、そこにもし“蒸す”という調 理法が加わるとしたら、それはすごいこと。そ れは「食文化」の誕生といってもいい。 そんな土器だけど油断してはイケマセン。 (何の油断だ!?) この写真では見難いけど、正面から右に伸びる その環の先、これが三本指の手になっている! 環を抱きかかえる腕、それが実はこの土器の下 半分にある櫛をひっくり返したような文様にも 通じる重要な意味をもつ。その秘密は展示室で 確かめてくれたまえ!(急に上から) |
香炉形土器(火をともす) 藤内T式 残存高7cm 割れているものを修復せずにいるものだから、 一見なんだかよくわからないかな。ごめん。 浅い鉢のうえにブリッジというか天蓋と言おう か、そんな造形があって、この写真では左側が ひとつの大きな窓、右奥側が複数の窓になって いる。 中で火をともす土器だけど、それは夜の明かり をとるランプというような日常用具ではないよ。 ムラの中で限られた家にしかない特殊な土器だ。 火にかかわる祭儀、神事に用いられるものだろ うね。僕らは火の神の誕生にかかわるものとみ ているよ。 香炉形土器は、この藤内T式という時期に現れ る。だからこの土器はその最初の頃の姿だ。し かし細かな造形は、やはり特別な器であること を物語っているようだね。 |
台付鉢 藤内T式 高さ16cm 上↑に器台という、土器の台があるけども、こ の土器は最初から台がちゃんと付いている。 台付の小ぶりの鉢で、残念ながら首から上は失わ れているよ。 胴部の文様は、整った縦帯区画文だね。その区画 の内部の沈線が縦だったり横だったりするのは、 さすが縄文人たるところ。 さてここからは煮炊きするための土器のさまざま なバリエーションをみていくよ。 そう、この土器も実は内面におこげが付いている んだ。台付の土器なのだから、お供え用に高くな っていると思うんだけど、この中で何か煮ている んだよ。最初からそのための土器だったのか、あ るいは途中で役割が変わったのか、そこはわから ない。めずらしいね。 |
深 鉢 井戸尻T式 高さ36cm さて、これは第2室でも見たけど、素文の口 縁の下、もともと箍状だったものが傘のように 張り出しているのがひとつの特徴だった。 で、やはりこれも煮炊きをするための土器で、 大きさや数量からみても一般的な“鍋”だった みたい。これが一般的なとは、なんとも使い難 そうだけどね(笑)。 ・・・ということを頭において、となりの土器を みてほしいんだな。 |
深 鉢 井戸尻T式 高さ18cm あら、←の土器とそっくり!同じタイプの、 同じ文様構成の土器で、傘状の張り出しまでし っかりつくられてます。 つくられてるのですが、大きさが半分しかない! 写真で見るとわからないけどね、展示室で見比 べてほしいな。 同じ形と文様、同じ使い方なのに大きさが違う。 それは、なぜ?おひとり鍋用?あっちは家族用? 使う場面によるのかな。ここに土器の“役割” が隠されているんだ。 |
深 鉢 藤内T式 高さ24cm さてお次はこのシンプルな土器。器面全体に 土器を作るときに粘土を積んだ痕跡を、わざと そのまま残している。で、指先でべこべこに。 指頭圧痕ってやり方だったね。文様はそれだけ。 煮炊きをする、っていう用途だけを考えたとき、 機能的っちゃあ機能的だ。だけどもこの粘土を 積んだ痕をしっかり消さずに残しておくと、乾 燥して焼くときに壊れやすいんだ。実は非常に 難しい技術なんだな。 あえてそんな不安定な状態のままにしておくと いうことはつまり、文様がないことにも意味が あるとみなくちゃいけないんだ。 わっかるかなぁ〜? わっかんねぇだろうなぁ〜。 (↑このネタがわかるのも何歳ぐらいまでか) |
蛇文方神深鉢 井戸尻V式 高さ38cm そしてこれですよ。左のと交互に見比べると まあなんとも、縄文土器って何だろう???? そんな気分になりますな。あれもこれも、縄文 土器なんです。同じ“鍋”なんですよ。 こらこら同じなわけ、ないやないか。そう突っ 込まんといて。それが今回の企画の意味なんや。 なぜ急に怪しい関西弁か、そこに意味はないが、 つまりその文様や造形の差を感じてほしいんだ。 もちろん形や文様は時代によって変わるから、 あれとこれを単純に比較できない部分はある。 それを差し引いてもこの差はいったいどこから くるんだろうか。そこを意識して見ると面白い と思うよ。 |
人面系大深鉢 曽利T式 残高61cm ・・・さらにでっかくなっちゃった。う〜ん。 この土器は前の時代の重要な祭器“人面深鉢” の系譜をひく、この時代にあっては非常に重要 な存在なわけです。 そしてこの大きさでしょ?これはどうしたって、 おひとり鍋どころではないですわな。 村じゅう、あるいはあちこちの村から集まって 執り行うような、大きな祭りのときに使われた のではないか?と考えるのが妥当なところかな。 そんなこんなで今回は 「さまざまな種類」 「うつわの大小」 「煮炊きをする土器の、いろいろな形」 を見てきましたがいかがでしょうか? とくに大きさの感じは実物を見ないと始まらん ということで、ぜひ考古館展示室にお越しくだ さい。お待ちしております! |