藤内遺跡出土品展 HP会場 第2室


 造形の爛熟 −井戸尻式土器の様相−

 10月4日より12月23日まで、藤内遺跡出土品展の第3期として「造形の爛熟−井戸尻式土器の様相−」
と題し、藤内遺跡の“井戸尻式土器”について展示を行います。
第2期の「均整の美−藤内式土器の世界−」とともに、このホームページで紹介いたします。

 井戸尻式土器というのは、井戸尻遺跡の出土品を“標式”として設定された型式で、2段階に分けられています。
  井戸尻T式
  井戸尻V式
 あれ??なぜU式がないの??
 最初はあったんです。その後の調査・研究により、U式はT式のなかに吸収されたんですね。
くわしくは井戸尻考古館の展示をご覧いただくか、今回の仕掛け人、副島学芸員に聞いてみて下さい。

 そしてなにより、世界を股にかけたイギリスの陶芸家バーナード・リーチをして、
「世界で最も豪華な土器」と言わしめた井戸尻式土器。その造形をとくとご覧ください!

 さて、そんなこんなで始まる第3期なのに第2室(笑)。
 藤内式同様、HP会場ではリラックスした解説をいたします。どうぞお楽しみください。





楕円文深鉢

井戸尻T式  高さ56.7cm
 大きな桶形の土器だ。大柄な楕円と、円形  の区画文を横に連ねて三段に構成している。  どっしりとした迫力に満ちた土器だね。  この円形の区画、実は文様がちょっとずつ  違っていたりする。何を意味するのかな?  それからこの文様は前の藤内式から続くんだ  けど、この写真だと向かって右の縁だけが高  く、刻みがつけられているんだ。  となりの楕円と連結したり、しなかったり。  シンプルなようだけどなかなか奥が深い。  そしてなによりこの大きさだ。体がでかいと  文様も大きくなる。楕円文を小さくして四・  五段にしようとか、そんなこたぁ考えないん  だな。なんとも豪快で気分よし!  

深 鉢

井戸尻T式  高さ22cm
  となりの楕円文深鉢とシルエットは同じだけど   大きさが全然違う。こちらは細かく文様が付け   られているよ。   下半分は底まで縄目文様だ。上半分は、波状に   区切られた中に文様が充填されている。このパ   ターンも藤内式から続くものだ。   ここで注目したいのは、その中の文様。捕物に   使う「さすまた」のような形の刻みは、三叉文   (さんさもん)というんだけど、この三叉文が   三つ組み合わされて、その中に円文がある。   三叉文がこの円を支えているようだね。   シャープで実に見事!      小さいけれど作者の心意気が感じられる、素晴   らしい作品だと私は思うのだが、どうかな?   

筒形土器

井戸尻T式  高さ21cm
  ストンとした筒形の土器。ある種の潔さすら感
  じるね。土器が薄いので、持ってみると意外に
  軽い。
  写真正面の2状の隆帯には刻みが付けられ器面
  を仕切っている。そして文様が・・・
  
  ・・・ん?
  一見シンプルに見えるこの文様は細い棒の先端
  で線を引いた部分と、細かく「突いては引く」
  という「押し引き」という方法で付けられている
  のだ。
  おぉ!やるねえ!ニクイねえ!

  縄文人はいつだって、「同じように」はしない。
  小ぶりで、単純な形の土器だって、手は抜かな
  い(まぁたまには、ないこともない)。
  私はそこに、大変共感いたします。





蒸器形深鉢

井戸尻T式  高さ29cm
  腰がくびれて底近くがふっくらと膨らんだ器。
 女性的なシルエットをもったこの手の器形は、
 井戸尻式に特徴的なもの。
 下の膨らんだところで湯を沸かしてこのくび
 れた部分に竹などで編んだサナを敷く。その
 サナに団子などを置いて蓋をすれば・・・
 そんな風に使ったのかも。

 口の内側は蓋が受けられるように平らに整形
 されていて、下の土器↓に見るような大きな
 装飾は付けられない。
 そのかわりかなり細かな文様が、上から見る
 ように、上面に集中して施されている。
 これは見事だから、展示室のほかの土器も、
 ぜひ見てほしいところだね。
 
 下部の膨らんだ部分には、櫛のような形の
 文様が付けられることが多い。これは“甦っ
 た三日月と光らない暗い月”に由来する図像
 なんだけど、この土器は少し違うよね。
 曲線で構成された土器なのに、文様は意外と
 トゲトゲしていて、そこがまたなんとも
 “ツンデレ”な感じですなあ。
 
  

蒸器形深鉢

井戸尻T式  高さ19cm
   蒸器形深鉢のひとつだけど少し雰囲気が違う。 
  器の表面はきれいに磨きあげられていて、糊の
  効いた襟のようにピッと立ちあがった口縁部分
  には三叉文等がきりりと刻まれている。
  小さく柔らかい器形ながら、なにかしら緊張感
  も感じられる快作だ。
  
  炉の火にかけて上から見るというよりは、何か
  こう、両手でそっと目の高さに捧げ持って、
  だれかに差し出すような、そんな情景が浮かぶ。
  
  豪華な土器、造形の爛熟とさえ表現される井戸
  尻の土器群の中にあって、有孔鍔付土器や浅鉢
  というのは、あまり立体的な造形は持たない。
  しかしその無文の部分が限りなく雄弁で、時に
  ぐっと心をとらえてくるんだ。
  それにも通じる潔さを感じる土器だね。

深 鉢

井戸尻T式  高さ27cm
   蒸器形深鉢と並んで井戸尻式土器を代表する
  器形に、こんなもの↑がある。
  素文の口縁部が大きく内側に湾曲し、その縁
  にひねりあげたような、突起が付けられる。
  文様はほぼ胴部に限られ、底部はやや算盤珠
  状に張りだしているよ。胴部の文様は、藤内
  式の縦帯区画文の雰囲気が多少残っているね。

  見どころは大きく二つ。
  まず口縁の下、箍状の張り出しだ。これは藤
  内式土器から続く要素で、第1室の箍状口縁
  深鉢にある。
        これだ。 
  それが傘状に張りだすこと。   そしてもうひとつ。ひねりあげられたような   突起の意味するところ。これは常設展示の解   説の中に見つけてほしいな。



 
四方神面文深鉢

井戸尻T式  高さ33cm
  井戸尻式土器には、口縁の四方に大きく立体
 的な造形がのるものがあるね。井戸尻式、と
 聞いたときにまず思い浮かべるのは、このタ
 イプの土器ではないかな?
 この四方の塔状の造形は、眼をもった顔のよ
 うでもあり、また蛇頭ののった部屋のようで
 もあるのだが、我々はその造形をふまえて四
 方を祭る神の姿(顔)ではないかと考えてい
 るよ。

 全体のシルエットは蒸器形深鉢に通じ、そこ
 に藤内U式で土器の四方にあった双眼がせり
 上がった様な感じ。
 
 それから胴部の縄文。これが非常に効果的に
 使われているよね。蒸器形深鉢のように無文
 ではなく、縄文で埋める。ここにこの土器の、
 特にその上半部の意味するところが隠されて
 いるに違いないのだ。
 
蛇文方神深鉢

井戸尻V式  高さ41cm
   算盤珠状の底部に、キュッとくびれた腰に
  ボリュームある上部の造形。そして何より、
  そこに立ち上がる蛇!!!
  このバランス!この緊張感!!他を圧倒する
  存在感は見事としか言いようがないね。

  このような土器はいくつかありますが、これ
  ほどの作品は他に見られません。
  向かい合う一対の大きな蛇。それと直交する
  方向に、やはり一回り小さな蛇頭。
  しかしそれだけではない。そのそれぞれの下
  に、外を向いた小蛇の頭が。つまり八頭の蛇
  の姿をしている土器、ということになる。
  う〜ん、それにしてもなぜにこれほどの蛇が。
  
  思い出すのは八俣遠呂智(ヤマタノオロチ)だが
  まあそれはさておき(笑)。
  その謎ときはあなたの目で、ぜひ。
  
 
四方神面文深鉢

井戸尻V式  復元高25cm
   となりの蛇文方神深鉢より一回り小さいなが
  ら、その造形の巧みさには舌を巻く。
  バランス、文様の付け方、磨き方、見事という
  ほかありませんな。

  算盤珠状の底部、その稜線はじつにシャープで
  安定感もある。これはそこそこの腕ではけして
  作ることのできない土器だ。
  それでいて真上から見ると、この四つの神面は
  きっちり90度で四分割されたところについて
  はいない!
  そこのところは外してある。ああ、やっぱり。

  それにしてもこの土器、となりの蛇文方神深鉢
  と同じ第23号住居址から出土しているんだ。
  いったいどういう家なんだ!?
  そういえば第1室で紹介した、町の文化財に指
  定されている二つの土器(双眼五重深鉢と区画
  文筒形土器)も、同じ住居址の出土だったな。
   




この土器はいま、旅に出ています。
展示室では見られないので削除しようと
思いましたが、友人のアドバイスにより
HP会場でしか見られないレア・アイテム
として、HP上に残すことにしました。
どうぞご理解ください  m(_ _)m

台付鉢

井戸尻V式  高さ22cm
  珍しい形の台付の土器だね。口縁にひとつ双
 眼が付けられているから、双眼台付鉢でもいい。
 「台が付く」ってことは基本的には直接地面に
 置かない、ということ。つまり神に捧げる時に
 使うものと理解される。難しい言葉で「供献」
 といわれるよ。
 
 ところがこの土器には内面にオコゲが付いて
 いるんだって。てことは、この土器で煮炊きを
 したということだよね。それはまた珍しい。

 胴部の隆起線は、うねうねと蛇行して続いたり
 途切れたり。所々でくるりと巻いている。
 そして一箇所の双眼。この眼から長い腕がにょ
 ろにょろと伸びているかのようでもあるね。
 

蒸器形深鉢(口縁部)

井戸尻V式  残高13cm
   いやいや、うねうねすると言えば、こんなもの
  もあるよ。蒸器形深鉢の口縁部分で、下半分は
  失われている。
  向かい合う二箇所が三角形に鋭く立ちあがって
  いるけど、ここには大小の蛇頭がある。ここか
  ら下へ、蛇の胴が続いていたようで、特に写真
  の向かって右側の方は、ブリッジ状に、把手の
  ような蛇身になっていたらしい。

  そして全体を巡る褶曲文様。数本単位で蛇行す
  るこの文様は、水の流れのようでもあるよね。
  こういう表現が、この後の段階の曽利T式に引
  き継がれていくんだ。そう、水煙渦巻文深鉢
  それだよ。
   
  それにしてもこの時期、本当に蛇の図像が多い。
  蛇は不死を象徴するともいわれるけど、それが
  こういった蒸器形の土器に多く見られるのは、
  どうしてなんだろう?ここはもう少し考えてみ
  たいところだ。
   

人面深鉢 破片
(貸出中)
井戸尻T式  残高11cm
   三叉文の間に、かわいらしい顔。口は三角形。
   顔そのものは大きくはないけれど、丁寧に作
  られている。

  人面深鉢については第1室でも書いたけど、こ
  の作品で注目しておきたいのは、その額だ。
  眉の上、額にあたるところが銀杏葉形に窪んで
  いるよね。実は井戸尻文化の人面や土偶の中に
  は、このような表現が数多く見られるんだ。
  そう思って展示室内の土偶や人面をよ〜く見て
  ほしい。その意味は・・・
  残念ながら私はちゃんと理解できていないんだ。
  
  これについては前館長の小林公明さんが、詳し
  く書いた文章がある。
  気になる方はそちらをどうぞ(逃げたな?笑)。
  
  さて次は来年1月からの第4期展示
 「うつわに課された役割
      −様々な形と大きさ−」
  どうぞお楽しみに!


藤内遺跡出土品展 HP会場エントランスへ

第1室:均整の美−藤内式土器の世界−へ

第3室:うつわに課された役割−様々な形と大きさ−へ



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